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1人の女性が生涯に産む子どもの平均数を表す合計特殊出生率が、昨年は前年より上がって1.37になった。05年に過去最低の1.26まで落ち込んで以降、3年連続の上昇だ。
うるう年で1日長かったことや、昨年前半までは景気がまずまずだったことも反映しているとみられるが、団塊ジュニアを含む30代での結婚、出産が増えたことが大きいという。
少子化の流れが反転する兆しならうれしいが、結婚や出産の時期が後ろにずれただけの一時的な現象という見方もある。楽観はできない。
そもそも、子育て世代を取り巻く環境が良くなったとは言い難い。
保育所の待機児童は昨年10月で約4万人と前年同期より1割増えた。厚生労働省が推計したところ、0歳から5歳児は保育の受け皿をいまの200万人分から1.5倍に、小学1年生から3年生は70万人分から3倍に増やす必要があるとの結果が出た。
夫の協力を得ようにも、週60時間以上働いている人は30代の男性で約5人に1人と、長時間労働は相変わらずだ。出産を機に仕事を辞める女性も多く、労働環境の改善はなお課題だ。
育児休業を理由に解雇や減給など不当な扱いを受けたという相談は、厚労省のまとめで昨年度1262件と、前年度の約1.4倍もあった。さらに、非正社員の増加や世界同時不況で完全失業率が5%に達するなど、雇用が急速に悪化していることも心配だ。
こんな状態で安心して結婚、出産、子育てが出来るだろうか。若い世代への支援を思い切って強化することが必要である。
政府は、保育所整備などのため「安心こども基金」をつくったり、妊婦健診費用の公費負担を増やしたりしたが、来年度末で終わる。3〜5歳の幼児全員に年3万6千円を支給する「子育て応援特別手当」は今年度だけの事業だ。いずれも経済危機対策の一環にすぎず、いかにも場当たり的で、心もとない。
そもそも国内総生産(GDP)に対する日本の子育て支援などの家族関係支出はわずか0.8%。出生率を大きく回復したフランスやスウェーデンの3%と比べて貧弱すぎる。
その一方、政府は昨年末にまとめた中期プログラムで、景気回復後には消費税増税を含む税制の抜本改革を行い、社会保障を強化するとしている。少子化対策もその柱に据えられているが、どんな施策にどれだけの財源を充てるのか。優先順位をつけて、実行への道筋を早く示すべきだ。
少子化対策のための重点戦略検討会議や社会保障国民会議……。報告書や少子化対策のメニューは山のようにある。問題は、政権に本気で取り組む意思があるか否かである。
敵地という重圧をはね返した。サッカーの日本代表がウズベキスタンを破り、南アフリカで来年開かれるワールドカップ(W杯)への出場を決めた。
厳しい試合だったが、選手たちはひるまなかった。ヘディングで押し込んだ岡崎のゴールには、W杯への執念を感じた人が多かっただろう。98年のフランス大会以来、4大会連続4度目の大舞台だ。来年6月11日の開幕が待ち遠しい。
一昨年、オシム前監督が病に倒れ、岡田監督に白羽の矢が立った。含蓄のある言葉で選手を引っ張った名将の後任である。楽ではなかったろう。
岡田氏が98年、W杯初出場のフランス大会で指揮をとったときは3戦全敗だった。守りを固め、逆襲を狙うしかなかった。02年日韓大会は、トルシエ監督のシステムを重視した考え方が功を奏し16強入り。日本中が熱狂した。だが06年ドイツ大会は、自主性を重んじるジーコ監督の方針を選手が消化し切れないまま1分け2敗に終わった。
初の代表監督から10年余り。岡田氏は自らの哲学を選手に浸透させ、過去にないスタイルで代表を率いている。
それは日本人らしい機敏なサッカーだ。小回りが利き、球さばきにたけるという特性を生かし、よりゴールに近づき、パスに多くの選手がからんで好機をつくる。バランスよく人を配する定石を捨てた、大胆な戦術だ。
強国のまねを戒めたオシム氏の「日本代表の日本化」という言葉を、岡田流で実践したともいえる。ウズベキスタン戦でも、目指すサッカーが確かに見えた。
日本のサッカーは93年にJリーグが始まったのを機に、爆発的に人気が高まった。それも90年代後半にはいったん静まり、観客の伸びは鈍化した。
だが、98年のW杯初出場で流れが変わった。日韓W杯の盛り上がりを経て昨年、リーグ国内公式戦の総入場者数は初めて900万人の大台に乗った。
10チームでスタートを切ったJリーグは年々加盟クラブ数が増えた。99年からは下部のJ2もスタートし、今年は最多となる計36チームに達した。地域に根ざしたすそ野の広がりが、頂点を高めることにもつながりつつある。
スペインの守備より攻撃を重視したスタイル、イタリアの守りの堅実さ……。サッカーには、国の「らしさ」が如実に出る。過去のW杯での日本代表は、その「色」が希薄だった。
今回は、海外の模倣ではない「ジャパン・オリジナル」の形が、予選を戦う中で徐々に固まってきた。「目標はW杯本大会でベスト4。世界をあっと驚かせたい」というのが岡田監督の思いだ。
本大会まで1年。日本代表が自らを研ぎ澄ませていく姿を見守りつつ、アフリカ大陸初の祭典を待ちたい。