1987年に来日した中国人作家・楊逸さんの芥川賞受賞作「時が滲む朝」は、来日2年後に起きた天安門事件をモチーフにした作品だ。事件から20年。その歳月は、一人の外国人が母語でない言語で文学賞の頂点に立つことができるほどの長さだともいえるだろう。
中国はその間に、国際的な影響力を飛躍的に増した。改革・開放政策が軌道に乗り、年平均10%近い経済成長で国内総生産(GDP)は日本の75%に達して世界3位の経済大国になった。貿易総額も30年前に比べると100倍以上に伸びている。
だが、学生らによる民主化運動を武力弾圧した天安門事件について、中国共産党は今も「政治風波(騒ぎ)」と位置づけて正当化し、民主化は置き去りにされたままだ。
事件は89年6月4日に起きた。胡耀邦・元共産党総書記の死去がきっかけだった。民主化を求める学生らが集まった天安門広場に戦車などが突入し鎮圧した。当局は死者を319人としているが、正確な数は不明。学生らと妥協しようとした趙紫陽総書記は、事件後失脚した。
20年の節目に当たり、中国当局は天安門広場近くで追悼を行おうとした遺族を軟禁し、広場に多数の警官を配置する厳戒態勢をとった。また民主化運動主要メンバーとして指名手配され、マカオから中国への出頭を試みていたウアルカイシ氏を強制退去処分とした。
こうした対処の背景には、貧富の差の拡大や党・政府官僚の腐敗の深刻化により、政治参加の道を閉ざされている民衆の抗議活動が急激に高まることに、当局がいかに神経質になっているかがみてとれる。
小説「時が滲む朝」には、天安門広場に「我愛中国」「我要民主」の文字が躍る場面があるが、事件を「愛国民主運動」と再評価すれば、それを機に国民の党への不満が一気に噴き出しかねない懸念もあるだろう。
中国国内では、事件の風化が進んでいるという。しかし、世界は当時の衝撃を忘れてはいない。クリントン米国務長官は、今も拘束されている人々の解放を求めるなど、中国政府に対して人権擁護と民主化を迫る声明を出した。日本政府も河村建夫官房長官が人権への懸念に触れ、人権問題への対応改善に取り組むよう求めた。
経済改革の成功で五輪を経験し、来年は万博を開催する中国は、民主的な政治改革を遂げてこそ、名実ともに「超大国」と呼ばれるにふさわしい。
温暖化の影響か近年、局地的な豪雨災害が頻発し、一方で高齢化などで住民同士の助け合いが難しくなっている。今年の防災白書は、こうした現状認識から人々の災害に対する危機意識が高まっていると伝えた。
昨年7月、大雨で神戸市の川が急に増水し、児童を含む5人の死者が出た。白書は最近の災害事例を記した上で内閣府が今年2―3月、20歳以上の男女を対象に行った意識調査の結果を紹介している。
62%が「周りで災害リスクが最近高まっている」と回答し、「将来、リスクが高まる」と考える人は76%に上った。最近高まっていると回答した人に理由(複数回答)を尋ねると、近年の異常気象の頻繁化が80%で最多だった。コミュニティーの希薄化などによる地域防災力の低下38%、都市化の進行29%、地方の高齢化27%と続く。
注目したいのは危機感に基づく参加意識の高まりだ。地域の防災活動に関する質問で「条件が整えば参加したい」とした人が57%に達した。既に参加している人は7%にとどまるが、これを含めて71%の人が活動参加に意欲を示した。
「条件」とは活動の曜日や時間などであり、若い世代で条件整備の要望が多かった。やはり仕事や勉強との兼ね合いだろう。人々の参加意欲を実際の防災活動に結びつける策を講じ、地域の防災力を高めたい。
白書は行政と地域が連携し、住民へ参加を促すことなどを訴えている。行政が音頭を取って各地の自主防災組織の活動内容を調整したり、企業に協力を求めることも大切だろう。
白書が地域の防災力の中核と位置づける消防団の高齢化や人数減少が言われて久しい。困難な課題だが、引き続き活性化に取り組んでいく必要がある。
(2009年6月7日掲載)