だから、人は彼を「天才」と呼ぶ。
最初の一振りで決めた。一回の第1打席。カウント0−1からの2球目。リッチ・ヒル投手(29)の89マイル(約143キロ)の外角直球を左中間に弾き返す。相手の返球ミスの間に三塁へ。三塁手のモーラに言葉をかけられ、少しほほえんだ。25試合連続安打。簡単に自己記録に並んだ。
「記録? 知りませんでした。23か4か5か6か知らんけど。ま、近いだろうなとは思っていましたが…」
だから、天才だ。本心かどうかは別にして、自己記録に並ぶことを知らなかったという。「だって知らないんだもん。(気持ちの)高まりようもない。すんませんね、いつも」。単なる通過点だった。
とはいえ、偶然か。2007年と同じ6月1日の25試合連続安打達成。「知るかそんなこと、ってなるよね。フフッ」。
10月で36歳になる。ベテランと呼ばれる年齢に達しているが、年男は衰えを知らない。
3月のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)の精神的重圧から開幕前に胃潰瘍(かいよう)で故障者リスト(DL)入り。開幕から8試合を欠場したが、5月の安打量産で今季69本はリーグ3位タイ。シーズン241安打ペースで“出遅れ”は解消されている。
チームメートの城島は左足親指の亀裂骨折、レイズ・岩村は左ひざじん帯断裂でDL入り。右肩の疲労から復帰も、いまだ勝ち星のないレッドソックス・松坂。WBC組が相次いで離脱する中、天才は一人、強烈な“自己主張”を続ける。
「(連続試合安打に)関心がないことはないが、それほど執着もしていない」。次なる“獲物”は今季メジャー最多記録の「31」。はるか先にあるメジャー記録の「56」もイチローにとって伝説の数字ではない。
まずは2日のオ軍戦で自己記録更新。数字を“知ってしまった”天才だが、こんなところでは終わらない。