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「本籍も移しました。この静岡7区に骨を埋めます」
女性“刺客”候補の一人である片山さつきが街頭で繰り返し繰り返し訴えたこのセリフは、実はコミ戦が考案して彼女に“言わせていた”ものだ。
女性刺客候補のほとんどを選定したのは小泉首相とその周辺だが、選挙戦をいかに演出するかはコミ戦の最重要テーマだった。注目を集める刺客候補ならばなおさらのことである。
財務官僚出身の片山はミス東大、初の女性主計官など、経歴の話題性は十分。しかし、コミ戦にとっては、いまの世論、とりわけ静岡7区の有権者がリアルタイムで彼女をどう見ているかだけが重要なのだ。
片山が候補に決まった8月 11日、夜のテレビニュースが放送された直後に、自民党の情報調査局に一本の電話が入った。年配の有権者からだった。
「あの髪型が気になる。古くさいし、清潔感に欠けるのではないか」
さらに週刊誌が片山のプロフィールを書き立てた直後、再び調査局には別の有権者から電話があった。
「ブランドもののバッグとか、印象が良くないね」
党本部内にある情報調査局は、党員や一般人からのクレームを受け付ける、いわゆる「苦情センター」のような部門である。だが、「たった一本の電話でも、データとして戦略の議論の対象とする」ことを世耕は重視し、調査局の人間をコミ戦のメンバーにも抜擢した。
さらにコミ戦を憂慮させたのが、選挙区が静岡7区に決まった直後の彼女のテレビインタビューだった。郵政民営化法案に反対票を投じ、無所属出馬となった城内実は、番組の中で「自分は地域密着」「片山は落下傘候補」と訴えていた。これに対し、片山はこう応じたのである。
「向こうが地域密着を訴えても私はいいんです。私は小泉総理に選ばれたんです」
――静岡にはいつ入るのか。余裕があるように見えるが?
「私はマイペースです」
テレビを見た静岡在住の年配の党員から、やはり調査局に電話があった。
「あれじゃ、選挙区の人間は誰も応援しないぞ」
ただちにコミ戦で“片山戦略”が議論された。
「髪もブランド品も対処したほうがいい。一人が感じているということは、放っておけばいずれはあっという間に広まる」「城内はひたすら地域密着を強調するだろう。このまま地方対中央という対立構図を作られてしまったら政策選択という争点以前にやられてしまう。まずは片山を同じ土俵に上げる必要がある」
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世耕は、「どうすべきか」をペーパーにまとめた上で、静岡入りする直前の片山に一対一で会った。
「小泉さんに選ばれようが、そんなことはどうでもいい。変な理屈を言うべきではない。あなたも地元を大切にするという姿勢を示さなければならない。『骨を埋めます。戸籍も移しました』の一本でいくように。髪型もすぐ変えて。ブランド物は厳禁だ」
「どうして、そこまで言われなきゃならないの!」
1時間以上に及んだ話し合いの中では片山が激しく憤る場面もあったが、最後は世耕が押し切った。
その翌日からである。候補者「片山さつき」は、外見も話す内容もがらりと変わった。冒頭の「骨を埋める」発言を連発するようになり、髪型も服装もそれまでとは明らかに変わり、彼女は“地元が親しみやすい候補”として支持を集めるようになっていく。
岐阜1区の佐藤ゆかりも同様だった。佐藤は岐阜の候補に決まった直後、インタビューでこう語っている。
「飛騨の白川郷には旅行で行ったこともあります。とてもいいところで大好きです」
この発言について、コミ戦の会議では「ただちに修正が必要」との結論が出た。野田聖子との板挟みで神経質になっている自民支援者にとって、旅行程度の中途半端な「縁」を強調すれば、間違いなく強い反発を買う。議論の末、コミ戦が彼女に用意したのは次のセリフだった。
「この岐阜に嫁ぐつもりでやってきました――」
新幹線を乗り継ぎ、佐藤が選挙区入りした第一声がまさにこの言葉だった。その後も佐藤は、いたる場所でこのフレーズを忠実に繰り返している。
コミ戦の考え出したセリフだけで、片山が小選挙区で勝ち、佐藤が野田に肉薄したとは思わない。だが、客観的、組織的に危機管理を行う重要性を自民党の選挙現場に植え付けたことは間違いない。執行部経験のあるベテラン議員は言う。
「候補者が何かまずいことをした場合、今回のように本部が客観的な情報を含め、的確にアドバイスを授けるというやり方は、結果的に支持者離れを食い止め、票の減少に歯止めもかけられる」
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