現在の日本の経済危機

October
05
2008

問題のすり替え

 

 現在の日本経済がサブプライム問題によって、危機的状況であり国民生活に重大な影響を及ぼすと、政府は声高に扇動しています。しかし、これは明らかに問題のすり替えであると思います。昨年夏にサブプライム問題が噴出して以来、アメリカを中心とした世界の金融市場は激震に見舞われていることは明らかですが、そのことが国内経済の不振に直結しているとする意見は、まったく正しいものとはいえません。日本経済の問題の根源は2002年から70ヶ月あまり続いた戦後最長の景気拡大時に、企業の労働分配率が約54%→約49%に減少して、内需がまったく伸びなかったことが主要因なのは明らかです。輸出や金融を中心に全体の企業業績を牽引したことは否定しませんが、個人可処分所得が伸びなかったことで、輸出依存度が急激に高まった。加えて規制緩和の名の下に、派遣業を大幅に緩和した政府の労働政策の悪政は、正規雇用と賃金の伸びを著しく阻害しました。数値的には2001年の労働分配率は約54%で当時の消費者物価指数は101程度、今年の7月の段階で、労働分配率48%台で現在の消費者物価指数は約102.5。仮にそれが2001年の水準であれば伸び率を考慮して、ほぼ同レベルとなります。その場合、私達の生活にこれほどの閉塞感があったでしょうか?

 

金融機関の融資姿勢

 

国内金融機関の、貸し渋り、貸し剥がしによって国内企業の資金繰りは非常に厳しい状況になったのは事実です。しかし、融資の基本線は借り手企業の財務状況や事業の将来性を考慮してのものであり、内需不振により業績が振るわない、将来性が見込めない状況となっては、融資は厳しいことも否めません。そこにサブプライム問題で、リスクだけが拡大した格好となっては、お手上げ状態で、金融機関同士の信用収縮とダブルパンチというのが現状ではないでしょうか。これでは、国内のマネーサプライなど現象の一途をたどってしまいます。ここでも本末転倒の議論があり、中小企業の資金繰りが厳しいから緊急経済政策で補正を組み、信用保証協会の与信枠を拡大して対応するということですが、融資を受ける企業の大半は後ろ向き資金でしかなく、新銀行東京の前例の二の舞の危惧さえある。政府が内需拡大路線を明確に打ち出さないと、逆効果で腰折れとなってしまいます。

 

金融危機の影響と日本政府

 

早くもメガバンクや野村證券は、チャンスとばかりに買収戦略に方向転換している姿勢を見ても、アメリカ金融危機の影響はきわめて限定的だといえます(一部非常に問題を抱えるメガもりますが・・)。アメリカやユーロの金融機関の状況は、想像を絶する壊滅的なものであり、比較論はまったく必要ないレベルでしょう。また、生保、損保とも軽度の影響にとどまり、日本の金融機関全体ではまったく健全な状況を維持していると言えます。話題の個人金融資産も毀損は数%程度であることが、非常に大きいと思います。民間調査機関の調査では、ここ数年で輸出シフトしたメーカーが内需拡大政策によって2003年の水準に戻れれば、乗り切れるというものもあり、今現在は積極財政を推進して内需拡大することが必須であると思われます。原油価格はピークから約40%下落したのをはじめ、鉄鋼やアルミの原材料価格の下落、食品価格の下落と輸入価格は、将来的に大きく値戻しをするはずで、国内企業にとっては大きな下支えとなります。また、ドル安・円高の為替基調は決定的であり、国内経済に対しては追い風のファクターが目白押しです。
 日本経済は連日のメディア報道や政府対応姿勢でネガティブな印象ばかりですが、徹底的にアメリカやユーロ諸国と比較論をすれば、問題など見当たらないほどに優良な経済環境にあることが判ると思います。諸悪の根源は政治力の欠如であり、小泉改革によって歪められた経済政策への継承論をいち早く捨て去り、内需拡大、消費拡大へと舵を切るべきです。世界経済の動乱を回避し、日本経済が立ち直る唯一無二のチャンスが今だと思います。

                                                     

                            某メディア寄稿原稿より

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Posted by 有海啓介 | この記事のURL |