社説ウオッチング

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社説ウオッチング:小沢氏辞任表明 毎日、呪縛から解放された

 ◇朝日「小沢氏頼み」の刷新を/産経、影響力残したのでは

 民主党の小沢一郎氏の代表辞任表明を受けて行われた代表選挙で鳩山由紀夫氏が新代表に選ばれた。辞任表明から代表選までの5日間、各紙は社説で小沢問題と今後の民主党の進むべき方向について論じた。小沢氏辞任の意味を中心に各紙の論評を比較した。

 小沢氏は11日の辞任表明の記者会見で、党内の結束・団結が絶対不可欠であると強調し、「私が代表の職にとどまることにより、挙党一致の態勢を強固にする上で少しでも差し障りがあるとするならば、それは決して私の本意ではない。政権交代という大目標を達成するために、自ら身を引くことで、民主党の団結を強め、挙党一致をより強固なものにしたいと判断した」と述べた。

 ◇説明責任果たされず

 だが、公設秘書が政治資金規正法違反容疑で逮捕・起訴された事件に関しては自らは触れず、質問に答える形で「一点のやましいところもない。法律に従ってきちんと処理して報告している」と述べただけだった。離党、議員辞職も選択肢として考えるかとの質問には「なぜ離党、議員辞職しなくてはいけないのか」と反論した。これでは多くの国民の納得が得られるはずもないだろう。

 当然、各紙はこの点について厳しく論評した。

 毎日は「小沢氏は自民党政治を打破するといいながら、なぜ、ゼネコンから巨額の献金を受け続けてきたのか。素朴な疑問に小沢氏は結局答えられなかった」と批判。朝日も「なぜゼネコンから長年にわたって巨額の献金を受けていたのか」と疑問を投げかけ、「この不信感の集積を、ぬぐわねばならないのだ。新代表になればまた自動的に支持が取り戻せると思っているのなら、大きな間違いだ」と述べた。

 他紙も小沢氏の姿勢を「事件で『心配をかけた』支持者への謝罪はあっても、政治献金に関する具体的な説明はなかった」(読売)、「逮捕から2カ月余りが経過したが、小沢氏が説明責任を果たしたとは言い難い」(日経)、「多額のゼネコン献金を必要とした理由は何か。多くの国民は小沢ファンも含めて聞きたかったのではないか。辞任会見でもここを避けたのは遺憾である」(東京)と批判した。

 産経は「きわめて遺憾であり国民の信を失っていることを理解していない。離党もしくは議員を辞職するような事態であることを認識すべきである」とより厳しく非難。そのうえで「自発的に辞任し、影響力を残したということではないのか」と指摘した。

 秘書逮捕から2カ月もたってからの辞任表明というタイミングについても、「むしろ遅すぎる決断だった」(毎日)、「もっと早く踏み切っていれば、民主党が被った損失は小さくて済んだろう」(朝日)、「遅きに失した退場と言えよう」(読売)などと否定的にとらえた。

 なぜ遅すぎたと言えるのか。毎日は、「次の衆院選で首相を目指す民主党の代表が『古い自民党の体質を引きずっている』と多くの有権者を失望させた」ことを重視し、小沢氏の決断の遅れが次期衆院選のマニフェスト作りを停滞させた点を挙げた。

 朝日も同様に、政権交代前夜のおもむきさえあった民主党の勢いを一気に失速させたことだけでなく、マニフェストづくり作業をほぼストップさせたと指摘した。

 06年4月、偽メール問題で前原誠司氏が代表を辞任したあと代表に就任した小沢氏は、07年7月の参院選で圧勝するなど党勢拡大に貢献もした。「とかく『風』任せの選挙を続けてきた民主党議員に『地元回り』の必要性を説く一方、支持組織固めも進めた」(毎日)というように政権交代をより身近なものにした功績は大きい。

 この点については産経も「政権交代の可能性を高めた力量、手腕が大きいことは多くの人が認めるところだろう」と述べ、朝日は「どこかひ弱な民主党にとって、その腕力は政権につくのに欠かせない『劇薬』と受け止められた」とした。

 では、小沢氏の代表辞任が意味するものは何か。各紙が注目したのは民主党が今後、小沢氏との距離をどうとるかという点である。

 ◇読売「政策見直しの好機」

 読売は「小沢代表主導による政局・選挙一辺倒の姿勢を是正し、政策の見直しを図る好機でもある。小沢代表が決定した政策や方針には異論を唱えられないような風潮は当然、改めるべきだ」と述べた。

 朝日は「何かといえば『小沢氏頼み』になりがちだった党の体質を、新代表のもとで刷新することだ」と求めた。

 毎日は小沢氏の進退問題という呪縛からやっと解き放されたとみることもできるとし、「密室での駆け引きに剛腕を発揮してきた小沢氏だが、今回の辞任はそうしたスタイルの政治が終わりを告げていることも意味しているように思われる」とした。民主党がこれを機に、小沢氏に象徴される古い型の政治スタイルから脱皮することへの期待を表明したものだ。

 国会議員だけによる民主党代表選は結局、鳩山氏が29票差で岡田克也氏を抑えたが、同党は新たな困難を抱えたといえよう。世論とのギャップをどう克服していくかという問題である。小沢氏の辞任表明直後に毎日新聞が実施した世論調査では新代表にふさわしい人としては岡田氏が鳩山氏を大幅に上回っていたからだ。

 鳩山新代表は当選後、所属議員に「相手は自公連立政権。全員野球として結束し日本の大掃除をやろう」と呼びかけた。政治決戦への時間はあまり残されていない。態勢づくりを急がなければならない。【論説委員・森嶋幹夫】

毎日新聞 2009年5月17日 東京朝刊

 

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