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社説:水害サミット 経済と両立する「共水」

 今年で5回目を迎えた被災地域の首長が一堂に集う「水害サミット」が2日開かれた。米が主食の日本では、治水が昔から政治の一大テーマだ。最近は台風などとは異なり、極めて狭い地域で1時間に100ミリを超えるような集中豪雨が発生する。そして、下流の都市部にある中小河川まで被害が及ぶケースも少なくない。「ゲリラ豪雨」と称せられる新たな水害への取り組みと、グリーン・ニューディールで改めて注目されている川の環境保全を目指す「河川との共生」を2大テーマに論議が進んだ。

 これより先の5月末には、名古屋市で「水害サミットin東海」も開かれた。死者、行方不明者5000人以上を出した伊勢湾台風から今年は50年に当たることから、被災体験を語り合い、水害の猛威を再認識した。防災への心構えを普段から養っておこうというのだ。

 「水害サミット」では昨年8月の集中豪雨で、1110戸が床上浸水し、2人の死者が出た愛知県岡崎市の柴田紘一市長が体験談を語った。深夜に1時間あたり140ミリを超える豪雨の中で、避難勧告、避難命令を市民に伝達させる困難さを指摘。この教訓を生かし、河川の水位計と浸水時の浸水計を連動させた瞬時警報装置を近く設置する予定だ。

 昨年7月、神戸市・都賀川の親水公園で川遊びをしていた児童などが死亡した。上流の豪雨で川の水位がわずか10分間で1・3メートルも上昇した。上流の雨量、水位などの情報を瞬時に下流に伝えるシステムが「ゲリラ豪雨」対策には欠かせない。

 水害時での要介護者の救済に各自治体とも頭を悩ましている。地域コミュニティーが存在しても、過疎地域では介護に当たる人材の確保は難しい。都市部では要介護者の事前の把握が困難だ。要介護者向けのコミュニティーの再興を急ぎたい。

 また、「共水」では、コウノトリの里として有名な兵庫県豊岡市の中貝宗治市長が、行政体験を披歴した。水害修復のための河川改修では湿地帯を多く残すなどコウノトリと共生を目指したことを力説した。ドジョウなどを好物とするコウノトリにとっては農薬は大敵だ。周辺では、自然農法が広がり、「無農薬の『コウノトリ育(はぐく)むお米』は同じコシヒカリの倍近くで、『コウノトリ大豆』は3倍もの売値になっている」と中貝市長は説明する。

 治水から、利水、そして共水と川との関係は大きく変化してきた。共水には、都賀川の事故を見てもリスクが伴う。川の専門家を育成する制度の普及なども提案されたが、「共水」と経済は両立することを豊岡市の実例は証明している。

毎日新聞 2009年6月7日 東京朝刊

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