社員にモチベーションを与え、自信を持って新しいものに挑戦させていくためには、失敗をほめることも必要である。
2009年2月9日更新
アメリカ、マサチューセッツ州出身。マサチューセッツ州立大学卒業後、イリノイ大学大学院で化学専攻。1960年ゼネラル・エレクトリックに入社。1968年には同社において最年少となるゼネラル・マネジャーに昇格。1981年に会長兼CEOに就任。以来21年にわたって同社の変革に取り組み、1981年の就任時から売上高を5倍(1300億ドル)、純利益を8倍(127億ドル)、時価総額を30倍に伸ばし、世界一の株式時価総額を誇る巨大複合企業に育て上げた。産業界・メディアから、20世紀における最も優れた経営者として賞賛されている。
ゼネラル・エレクトリック(以下GE)のトップであるウェルチ氏は、自分の仕事で最も重要で最も時間を掛けているのは次の2項目だと述べている。
(1)社員にモチベーションを与えること
(2)社員を評価すること
この2つの大きな重要項目の中の最初のひとつ、「モチベーション」について触れたのが、ここでご紹介した名言である。
モチベーション(motivation)とは、直訳すれば「動機付け」のこと。ビジネスの現場では、「やる気」そのものをあらわす言葉として使われている。
製品の品質、企業への信頼、コストの削減、新商品の開発、あるいは顧客満足度のアップ。製品を世に送り出すメーカーにとって重要な多くの事柄の中にあって、何よりも大切なものとして社員にモチベーションを与えることを挙げているのは、まさにウェルチ流経営哲学の真髄といえるものだろう。
現在、社員にモチベーションを与えることの大切さは常識となっているが、企業にとってどのような重要事項も、尽きるところ、全ては社員のモチベーションにかかっているということを、最初に私たちに分からせてくれたのがウェルチ氏である。
では、社員にモチベーションを与えるために、企業は何をするべきなのか。
単に失敗を叱らず、機能しない製品を作った者にも、褒美を与え続けることなのか。そこで重要となるのが、失敗した行為も含め、正当に、かつ正確に社員を評価することだ。今回の名言のテーマであるモチベーションを与えることと、評価することは表裏一体となるものだ。
ウェルチ氏は、この人材の評価を行っていく上で、まず全ての基本となる、GEにとって必要な人材の定義を行った。
それは、次の4Eであらわされる。
Energy 自身がエネルギーに溢れている (情熱を持っている)
Energize 周囲を元気付ける (周りを刺激して動かす)
Edge 判断力を持っている (決断を下すことが出来る)
Execute 実行力がある (行動し結果を出すこと)
この人材像、つまりGEの意思を充分に理解・共感し、かつ結果を出すものに最高の評価を与える。次に理解・共感、あるいは結果のどちらか一方だけ、という者が中程度の評価を与えられ、再度挑戦する機会を与えられる。しかし、価値観を共有しようともせず、かつ結果も出せない者は、容赦なくリストラの対象となっていく。
こうした姿勢から、彼のことをコストカッター、厳しいリストラの実践者、あるいは「建物を壊さずに人間のみを殺す中性子爆弾」の特性になぞらえて「ニュートロンジャック」と呼ぶものもいる。
しかし、その本当の姿は、今回の名言でも分かるとおり、徹底した社員教育を行い、モチベーションを与え、そして実力を評価したうえで、それでもだめだったら切る、という、私達がイメージするリストラとはかなり違った姿である。
お気づきのように、ウェルチ氏が定義した4Eの人材像には、ミスを起こさないために慎重であれ、といった要素は一切存在しない。全てが前向き。モチベーションに支えられたオフェンス的な能力が並んでいる。
これは、顧客に安全な製品を届けることが第一の義務であり、守らなければいけない部分が非常に大きいメーカーにとって、よほどの決断といえるだろう。
こうした強い意思が、今回の名言のような、機能しない製品を作った者にも褒美を与える姿勢にも表れている。
これは、ミスを起こした社員に対する姿勢について語った次の言葉に通じる。
「部下が過ちを犯したとき、もっとも避けなければならないのは厳しい懲罰だ。このときこそ本人を励まして信頼感が生まれるようにすべきなのだ。上司の仕事は、部下に自信を取り戻させることだ。落ち込んでいる人を「鞭打つ」ことだけは絶対にしてはならない」
ウェルチ氏のやり方は、人材育成のためには、あえてミスを咎めず、あくまでもモチベーションを与える事を最優先で考える。ただその上で、厳しい評価を行う。
現在の私たちのやり方は、やる気は本人の問題。ミスは繰り返さないように厳しく指摘する。その上で、評価の大部分は数字で見える結果についてだけ。そんな、つい陥りがちな、私たちのマイナス査定、結果偏重の傾向について、改めて考えさせられる言葉でもある。
「花を育てるには肥料と水を両手に持って常に両方をかけなくてはいけない。うまく育てば美しい花壇になる。育たなければ抜くしかない。経営もそれと同じだ。」
彼は世界一の企業となったGEを、たった一言でこう表現している。
「GEは製品というより人間をつくる工場だ」