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社説

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「北の核」と世界―危機の連鎖防ぐ外交を

 北朝鮮が核実験をした4日後、米国のオバマ大統領が注目すべき声明を発表した。先月29日のことだ。

 ジュネーブ軍縮会議(CD)が、兵器用核分裂物質の生産禁止(カットオフ)条約の交渉開始を決めたことを歓迎する内容だった。

 核爆弾の材料となる濃縮ウランやプルトニウムの製造を禁止する。違反がないかをきちんと検証する。この条約ができれば、核軍拡の歯止めになる。また、新たに核武装する国の出現を防ぐ手立てにもなる。

 いいことずくめの条約だが、手足を縛られるのを嫌う核保有国などの反対は根強く、そう簡単に条約はできそうにない。なのになぜ、それも北朝鮮の核実験という現実を前にして、大統領は交渉促進を表明したのか。

 北朝鮮の核実験は日本の安全にも、世界の安全にもゆゆしき事態であり、国際社会への背信行為だ。強い意志のこもった国連安保理決議で、それを北朝鮮に実感させなければならない。

 ただ、北朝鮮への対応ばかりで世界が抱える核のリスクを収めることはできないことも事実なのだ。第2、第3の北朝鮮が出ないよう、穴だらけと揶揄(やゆ)されて久しい核不拡散条約(NPT)体制をねばり強く立て直していかなければならない。

 オバマ氏の思いはここにある。

 核兵器国は軍縮を進め、核を持たない国は非核を貫く。そして、将来の核廃絶をめざす。これがNPTの基本原則だ。NPTが崩壊すれば、世界のあちこちで核開発競争が始まり、核テロの危険も高まるだろう。カットオフ条約は、そんなリスクを回避し、不拡散体制を補強するためのものである。

 拡散という意味では、北朝鮮と並んで脅威なのがイランだ。安保理決議を無視してイランがウラン濃縮を続けると、対立するイスラエルが核施設を攻撃するかもしれない。そうなれば中東情勢が混乱して、サウジアラビアやシリアなどが核開発に動き、テロ集団に核物質が渡る恐れもある。そんな最悪のシナリオをどのように防ぐか。

 イラン問題は、米ロの核軍縮にも影を落としている。ブッシュ前政権は、イランの核を警戒して東欧へのミサイル防衛(MD)配備を決めた。ロシアは自国の核抑止力がそがれると猛反発している。イランと原子力協力をしているロシアが、イランを説得して核拡散を防げば、MDの出番はなくなる。米ロ核軍縮の進展にもつながる。

 イランを説き伏せ、さらなる拡散を防ぐためにも、北朝鮮問題で国際社会が結束してきちんとした対応を見せる必要がある。そうした結束が、カットオフ条約の進展にも役立つだろう。

 地球全体を視野に置いて、NPT体制の強化を考えていかないと、危機の連鎖は断てない。

入管法改正―監視よりも共生の発想で

 日本に住む外国人は07年末で215万人にまで増えた。政府は在留外国人をめぐる制度を大きく変えようとしているが、内容には問題も少なくない。

 合法な資格で3カ月を超えて滞在する外国人に対し、法務省がICチップつきの在留カードを発行し、滞在にかかわる情報を一元管理する。ただし、在日韓国・朝鮮人らについては対象とせず、特別永住者証明書を交付する。自治体の住民基本台帳に、新たに外国籍の人も載せる。これが国会で審議中の入管法改正案など3法案の内容だ。

 管理はいまより厳格になる。

 これまでは市町村で手続きをし、外国人登録証を受け取っていた。新制度では、空港や地方入国管理局で在留カードが交付され、外登証同様、常に携帯が求められる。住所変更の場合や、仕事の資格や留学で来ている人は、勤め先や学校が変わった時には届けねばならない。外国人の在籍している機関にも入管への報告が義務づけられる。

 法務省は情報を継続的にチェックし、取り消し事由に当てはまれば、在留資格を取り消すこともあるという。

 外国人の滞在状況を正確に把握する体制は必要だ。だが、この法案は、普通に生活を送る外国人に過度の負担を強いることにならないか。「監視されるようだ」と反発の声も当事者の間から上がっている。

 届けを忘れただけで罰金をとられ、そのうえ、日本にいられなくなるかもしれない。そんな不安をおぼえないか。永住資格がある人にまで、カード携帯を義務づける必要があるのか。

 一方、住基台帳法の改正は、外国人を地域の一員としてきちんと位置づけようとするものだ。日本人と同じように行政サービスを受けることができる。これはいい方向といえる。

 ただ、いまは滞在期間を超す滞在者らにも外国人登録が認められているが、新制度では住民基本台帳には載らず、在留カードも交付されない。

 こうした不法滞在者は現在十数万人いる。政府は「厳正に対処し、帰ってもらうのが基本」という立場だが、先に話題になったカルデロンさん一家のように、まじめに働いて地域に定着した人も少なくない。彼らを行政から見えない存在に追いやることで、学校教育や保健サービスからこぼれ落ちることがあってはならない。

 3年後とされる法の施行までに、在留特別許可の基準を弾力的に運用し、正規滞在への切り替えを促進する措置をとることはできないか。

 与野党は修正協議中だ。こうした論点をめぐって知恵を絞ってほしい。

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