不況の影響で資金繰りに行き詰まりがちな中小企業の経営者らが、振り込め詐欺の被害に遭うケースが目立っている。多額の即決融資をちらつかせ、保証金名目に現金を繰り返し振り込ませる手口で、倒産に至った会社もある。若者がメールなどを通じて被害に遭うことが多い架空請求詐欺も月平均200~300件台で減っておらず、警察庁は高齢者が中心だった被害防止策の盲点克服を急ぐ。【千代崎聖史】
「新生ファクタリングと申します。400万円まで融資できます」
東京・銀座で中小企業を経営する男性の携帯電話に非通知の電話がかかってきたのは3月のことだ。毎月の資金繰りに窮していた。融資の前提として事務手数料が必要だと告げられ、言われるがままに10万円を指定口座に振り込んだ。
しかし、融資は実行されない。逆に「返済能力を審査するため」「申込書類に不備があるから」と小刻みに10万~60万円の追加手数料を求められ、16回も振り込んだ。被害総額は5日間で計300万円に及んだ。
群馬県内の化粧品関連会社も、被害企業の一つだ。60代の男性社長は突然送られてきたファクスの内容を信じ、運転資金にと約1000万円の融資を申し込んだ。「保証預託金」として、5回にわたって約400万円を振り込まされたが、やはり融資が実行されることはなかった。
捜査関係者によれば、融資保証金詐欺の被害者は従来、ヤミ金業者などから名簿が流れたとみられる多重債務者らが多かった。しかし急速な景気の悪化で、資金繰りが厳しくなった中小企業経営者や自営業者が被害に遭うケースが目立ってきたという。「債務整理」などを名目に、別々の2業者から計約500万円をだまし取られ、倒産した都内の会社もある。
警察庁によれば、3月の振り込め詐欺の認知件数は835件で、昨年10月の撲滅月間以降続いていた減少傾向が一転、再び増加に転じた。数字を押し上げたのは融資保証金と架空請求詐欺で、それぞれ前月比117件増の274件、同44件増の295件だった。4月はやや沈静化したものの、幹部は警戒を強める。「従来は、被害規模の大きいオレオレ詐欺と還付金詐欺が対策の中心だった。被害者の多くが高齢者のため、若者や会社経営者らは取り残された形になっている。広報啓発に力を入れたい」と話す。
毎日新聞 2009年6月5日 東京夕刊