●春休み
2009年は年越し派遣村のニュースから始まった。これまでつづいてきた請負・派遣などの非正規雇用の実態を日比谷公園を舞台に多くの人々に可視化した意味は大きい。期末レポートを書くために堤未果著『ルポ貧困大国アメリカ』(岩波新書・2008年)、しばらくして湯浅誠著『反貧困―「すべり台社会」からの脱出』(岩波新書・2008年)を読む。
人間関係など個人のもつ溜めが急速に失われ、セーフティーネットが機能しないことで、失業=路上生活のような社会になっている。この溜めの重要性は、失業だけでなく様々なドロップアウトにおいて同様であると、私自身の不登校の体験から大いに共感した。
大下英治著『渡辺美智雄の総裁選』(徳間文庫・1989年)を読む。やはり一党支配時代の自民党には総理総裁をめざす階段や道があったと感じる。だがリクルート事件による棚からぼた餅で誕生した宇野・海部両政権から、最近の安倍・福田・麻生政権につながる政権担当能力の劣化が顕著になる。そして1989年参院選の与野党逆転によって一党支配自体が終焉して連立時代を迎えるのだ。
司馬遼太郎賞受賞式を兼ねる菜の花忌シンポジウムを聴くこともあったので原武史著『昭和天皇』(岩波新書・2008年)を読む。やはり昭和を歴史として検証するには年月が必要なのだろう。宮中祭祀に皇太子時代を含む戦前の昭和天皇が必ずしも熱心でなかった事実を知る。
気になっていたスティーヴン・ソダーバーグ監督の映画「チェ28歳の革命」と「チェ39歳別れの手紙」(ともに2008年)をまとめて観る。キューバ革命までを描いた「28歳の革命」のほうに興味を抱いた。
エルサレム賞受賞記念講演を掲載した毎日新聞記事で紹介されていた村上春樹著『アンダーグラウンド』(講談社・1997年)を読む。地下鉄サリン事件の被害者から聞き取ったノンフィクション。最も印象に残ったのは多くの被害者が体調がよくないと感じながら勤務地まで通勤をつづけたことだ。
中川右介著『カラヤンとフルトヴェングラー』(幻冬舎新書・2007年)を読む。主役はベルリン・フィルハーモニーの指揮者だが、ナチスの盛衰が背景にある。ナチス・ドイツといえばブライアン・シンガー監督の映画「ワルキューレ」(2008年)を観る。ヒトラーと全面対決するのではなく、ヒトラー暗殺後にヒトラーの意志に従うかたちでドイツ国家を方向転換しようとするクーデター実行中のせめぎあいが興味深かった。