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春・・・、それは新しい始まり。誰もがこれからの自分に夢や期待を膨らませて新たな出発、新たな「これから」を作ろうときっと心が弾んでいることだろう。 今年小学6年生へとなるこの少年は少し違うかもしれないが・・・。 彼はほんの少しだけ、他の子供と違っていた。一目彼を見ればきっと誰もがそう思うことだろう。 少年の名前はリュート、父親は公務員、母親は家事とスーパーのアルバイトをしている。 子供はなんとリュートを入れても5人兄弟という大家族。 リュートはその中で一番上の長男であり、下の弟や妹達の面倒をみなければならない立場にいる。 今年一番下の妹が1年生となるため、またまた出費がかさみ母親はバイトの時間を増やさなければならなくなってしまっていた。 せめて自分がしっかりしなくては・・・。それが他の家の子供と少し違うところなのかもしれない・・・。 でもそんなことは一目見るだけではわかるはずもない・・・、リュートには決定的に異なるところがあったのだ。 新しい教室のある廊下を歩いていると、後ろからバタバタと大きな足音を響かせながら体の大きな少年が、廊下の端を歩いていたリュートにわざとタックルをして、リュートはその勢いで壁に体をぶつけてしまった。 わざとぶつかった少年の後ろから続いて二人の、いかにも手下的なキャラ位置の少年が壁にもたれかかるリュートを見て笑いながら冷たい目線でリュートを見下した。 「お前みたいなヤツには廊下のはじっこだってもったいねぇんだよ、この青髪宇宙人が!!」 あからさまな罵倒を浴びせられるも、リュートは動じなかった。まるでなんでもない日常の光景のように。 リュートの髪の色は生まれつき青い髪だった。もちろん両親とも純粋な日本人であり弟も妹も黒髪だ。 当然髪を染めたわけでもない。あまりに異様なので一時期は黒に染めていたこともあったが、学校の生徒達に地毛が青い色だと周知されてからはそれももう隠しようもなく、イジメだって終わるはずもなかった・・・。 変わるはずもないのなら黒に染め変えてもお金がもったいないだけだし、意味がない・・・そういった理由でリュートは青い髪のまま現在に至っていた。 イジメだって慣れてしまえばもうどうでもよかった。最初の頃はただ辛くて毎日のように泣いていた日もあった。 リュートが今まで耐えてこられたのは家族の支えがあったからに他ならない。 リュートは笑顔を作ってみた。殴られても、蹴られても、べそをかかずに・・・笑って冗談を言ってみたり、卑屈なところを見せようとしなかった。はじめはそんなところも腹が立つと言って殴り続けた奴もいたけど、根気よく、じっと耐えていると、いつしかイジメる側も飽きてくる。実際そうだった。今ではたまに相手がむちゃくしゃしてて八つ当たりしてくるだけになった。それでもリュートにとっては大きな進歩だった。 目立たず、決して相手の機嫌を損ねないように、存在の気付かれない空気のように息をひそめていれば相手の目に留まることもないし、変に八つ当たりされることも、絡まれることもない。 悲しいが、これがリュートのたったひとつの処世術だった。 新しい教室の新しい席につき、リュートは黙って机を眺めながらじっと座っていた。 「なぁなぁ、新学期に合わせて転入生が来るの知ってっか?なんでもこのクラスに来るらしいぜ!」 教室内は転入生の話題でもちきりだった。どんなやつだとか、帰国子女らしいというマユツバ情報が飛び交い、女子達はカッコいい男子かどうか・・・、それだけに夢中だった。 やがて始業ベルが鳴り、まず担任が転入生が今から入ってくることなどを説明しだした。 (今日は早いとこチビ達を回収して家の手伝いしないとな・・・)転入生のことは自分には無関係だと思い、リュートは学校が終わったら何をしようか、それだけが気がかりだった。 教室のドアががらりと開き、さっきまで浮足立ってざわざわしていた教室内が一瞬にして静寂と化した。 「・・・?」あまりに一瞬で静かになったので、リュートは転入生がそんなにビックリするようなやつなのか?と思いながら視線を少し上にして黒板のあたりに目をやった。・・・リュートは一瞬自分の目を疑った。 そこには、少し目がキツく鋭いが、それ以外はまるで一卵性双生児のように自分そっくりの少年が立っていた。 髪の青い少年が不敵な笑みを浮かべてクラス全員に堂々と挨拶をした。 「珍しい青い髪のれっきとした人間で、名前はアギトだ。よろしく。」 リュートはクラスの中で誰よりもいち早くわかったことがあった。 アギトという少年は、青い髪を恥じることなくむしろ特別だと思っている・・・。 そして何より、よろしくと言った時の言葉と表情には、友好的なニュアンスは全く含まれていなかった・・・。 新しい始まりとは、自分から歩みだす最初の一歩で始まるとは限らない・・・。 中には、自分の意思とは関係なく無理矢理誰かが踏み込んでくるということもあるんだと、リュートは後になって知った。 |
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