27日午後零時50分ごろ、福井県敦賀市港町の敦賀港で開催されていたイベントの会場で、テントが突風で飛ばされ、巻き込まれた男性1人が死亡、8人が軽傷を負った。
(時事通信)
この事故の行方が気になります。
恐らくマスメディアや警察は、この事故の真の原因にたどり着くことはないでしょう。自然災害として片付けられるに違いありません。
マーク・トウェインの警句です。
災いを引き起こすのは知らないことではない。知らないのに知っていると思いこんでいることである。
11名の尊い命が奪われた明石市の花火大会歩道橋事故同様に、今回のイベントでの災いも、実は「知らないのに知っていると思いこんでいること」から発生したものなのです。
先日起きた八王子の無差別殺傷事件同様に、この事故でも一人の方が亡くなっています。人の命が奪われたということでは全く同じ「事件」です。
遺族の悲しみも同じでしょう。日本社会は、そしてマスメディアは、この事故を自然災害として片付けるのではなく、日本の大問題として取り上げるべきなのです。
ではなぜ私が大問題と考えるのか、それは次の問いかけで明らかになることでしょう。
それは、「この事故がディズニーランド内で起きていたら、マスメディアはどのように反応するか?」という問いかけです。
誰が考えても、ディズニーランドを無罪放免にすることなどあり得ないでしょう。
遺族も「自然災害だから仕方なかった」と許してくれるはずはありません。死亡者がお客様でも従業員でも、イベント運営の責任者は業務上過失致死罪に問われることでしょう。
それではひるがえって、今回の事故は「誰が」責任を取るべきなのでしょうか。
「強風で支えきれなくなり全員で一斉に手を離したが、1人だけ離さなかったという。」と報道されていますが、手を離さなかった被害者の自己責任なのでしょうか。それとも手を離した人が加害者なのでしょうか。
私はどちらでもないと考えます。加害者は実行委員会という「組織」です。「組織」がプロとしての仕事ができていなかった。つまり、マーク・トウェインの警句のように、正しいイベント運営方法を知らなかったことが、この災いを生んだのです。
ディズニーランドでは、今回のイベントで使われたような簡易テントを使用することはありませんが、仮に使用したとしても、突風や強風を想定した対策を事前に構築しておきます。そして、実際に突風の発生が予想される場合には、簡易テントを片付けたり、来場者や参加者を非難させたりするなどの安全対策を実行に移すのです。(有料の気象情報を24時間収集しています。)
これがプロの仕事です。
お分かりになられたことでしょう。安全対策のキーワードは「予測」なのです。
このキーワードで今回の事故の責任問題を考えてみます。
今回の事故の原因となった突風が予測できたのか、できなかったのかということはあまり重要な問題ではありません。より重要なことは、実行委員会という「組織」が突然の気象状況の変化を予想していたのか、していなかったのかということです。
換言すれば、気象状況は「変化しないだろう」と考えていたのか、それとも「変化するかもしれない」と考えていたのかということです。
プロの仕事とは、常に「かもしれない」を考えることです。「起きるかもしれないこと」を知っておくことなのです。
イベントの主催者である実行委員会には、このプロの仕事ができていませんでした。その結果が死亡事故の発生です。つまり、この死亡事故の加害者は実行委員会という「組織」である、これが私の出した結論です。
それでも、です。私は実行委員会の会長など、「個人」の責任を問うことは間違っていると思います。
なぜならば、「個人」は誰からも正しいイベント運営に関する教育を受けていないからです。突風を予測するなどという業務は、イベント運営には含まれないことが、日本では社会通念になっているからです。
さらに、です。明石市の花火大会歩道橋事故では、主催者である明石市の責任が問われ、市の担当者に有罪の判決が出された結果、花火大会を主催する自治体がもしもの事故を恐れ、花火大会の開催に消極的になってしまったと聞いています。
今回の事故で、イベントの実行委員長が起訴され有罪にでもなったらどうでしょうか。
誰も地域のイベントやお祭りの責任者などやらなくなってしまうことは火を見るより明らかです。
日本社会にイベント開催時の安全思想が定着するまでは、イベントを開催する「組織」の責任は問われても、個人の刑事責任は問われてはならない、イベントと安全管理に関するプロである私はそのように考えます。
最後にもう一度マーク・トウェインの警句を記します。
災いを引き起こすのは知らないことではない。知らないのに知っていると思いこんでいることである。
明石市の花火大会歩道橋事故然り、富士スピードウェイのF1グランプリ開催による集団訴訟然りです。
正しいイベント運営方法を知らないのに知っていると思いこんでいたからこそ、災いが引き起こされたのです。
日本社会には今、「知らないのに知っていると思いこんでいる症候群」があふれています。そして、このことこそが今回の事故の真の原因でもあり、日本中で多発している多くの事故や事件の真因でもあるのです。
亡くなられた方のご冥福をお祈りするとともに、この9人の死傷事故を教訓に、日本社会に蔓延する「知らないのに知っていると思いこんでいる症候群」が改善されることを願ってやみません。