オバマ米大統領が対イスラム教徒演説で対話重視と「二国家共存がパレスチナ問題唯一の解決策」と明言した。意欲的な姿勢は買うが、イスラエル説得など壁は高い。実現には強い指導力が要る。
オバマ演説は中東歴訪中のエジプト・カイロ大学で「イスラム教徒」向けという形で行われた。イスラム教の聖典コーランを引用、米国には七百万人近いイスラム教徒が住み、実父はケニアのイスラム教徒だったことにも触れ、相互理解へ「新たな始まり」を強調した。ブッシュ前政権の力による対決姿勢から、百八十度転換させた点では大きな前進と言えよう。
特にパレスチナ問題では、パレスチナ国家とイスラエルの共存こそ唯一の解決策とし、その前提としてパレスチナのイスラム原理主義ハマスの武装闘争を戒め、イスラエルには将来のパレスチナ領土であるヨルダン川西岸へのユダヤ人入植地建設の凍結も求めた。
大統領は就任時からイスラムとの対話を打ち出していた。今回は直前にサウジアラビアのアブドラ国王を訪問して、国王提唱の和平案を協議しており、中東の歴史的転換点になる可能性もある。和平案は、イスラエルがパレスチナ国家を認め、全占領地を返還する見返りにアラブ諸国がイスラエルと関係改善をする−という内容だ。
ただ、共存の和平プロセスはこれまで何度も論議されてきた基本線で、オバマ演説にはそれを超える新味はない。しかも、イスラエルには、凄惨(せいさん)なガザ攻撃後の今春、和平に全く後ろ向きのネタニヤフ首相が誕生している。先月中旬の大統領との会談でも二国家共存を拒否した。それなのにオバマ演説は、イスラエルと米国との文化的、歴史的なつながりを強調、どこかイスラエル擁護がつきまとう。
このため、アラブ側には歓迎の声より「大統領にイスラエルに圧力をかける方法があるのか」と冷ややかな疑念の空気の方が強い。
大統領の次の課題は「ユダヤ教徒」向けの和解提案である。それにはイスラエルの過度な軍事力行使に対し常にノーという明確な圧力を示すことができなければ、パレスチナ側を納得させられない。関係各国も二国家共存への支援を強力に展開してほしい。
また、核の拡散を懸念する大統領は、とりわけイランには「前提なく前進する用意がある」と述べた。イランの核開発を容認しない一方で、対話による解決をにじませたと、受け取るべきであろう。
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