麻生太郎首相は、一体何をしているのか。日本郵政の西川善文社長再任に鳩山邦夫総務相が「待った」をかけている問題である。何が問題なのかをきちんと整理して、早くこの人事に白黒をつけないと、麻生内閣のみならず日本の政治への信頼も失われかねない。
問題は二つある。第一に、郵政民営化をより良く進めるために、西川氏の功罪と能力をどう評価するかだ。基本的な材料はそろっている。オリックス不動産への一括売却を進めようとした「かんぽの宿」では、入札手続きに不適切な点があったと総務省から業務改善命令を受け、障害者団体向け割引制度の悪用では、郵便事業会社の2人の職員が逮捕され捜査がまだ進行中である。一方で、08年度決算でNTTグループ並みの黒字決算を出したことを評価する声もある。
過去の実績だけでなく未来の可能性にも目を向ける必要がある。黒字が出たとしても当初の目標には達していない。問題は、23万人社員、2万4000局のネットワークをどう持続可能な形で維持、あるいは改編していくか、そのビジネスモデルを作る上で誰がふさわしいのか、を突き詰めて考えなくてはならない。
以上が政策的な側面だとすれば、もう一つは政局的側面である。麻生内閣全体としては西川氏再任で動いてきたが、ここにきて主管大臣である鳩山氏が繰り返し「西川氏ノー」を強調することで、閣内不一致という重要局面に追い込まれつつある。このままでは、今月29日の株主総会で、100%株主である政府が西川氏再任を決めたのに、認可権限を持つ総務相がこれを認めない、という前代未聞の事態になりかねない。
この問題に対する麻生首相の反応は鈍すぎる。官房長官、財務相、総務相の関係3閣僚の調整に委ねる、としているが、あまりにも人ごとではないか。政府・与党内部に西川氏の自発的退任を望む声があるというが、それもまた情けない。
自民党に統治能力(ガバナビリティー)がなくなった、という指摘がある。役所間、議員間、あるいは、政治と霞が関、政治と経済界といったぶつかり合う利害を調整し一つの方向にまとめあげる能力だ。確かに、かつての自民党は、時には強く引き、時には緩め、政治技術を巧みに使いこなして安定的な統治を実現してきた。
もちろん、麻生首相だけの問題ではない。首相の意を受けて事前調整にあたる、いわゆる首相周辺部門の機能低下もある。ただ、部下を上手に使うのもすべて首相の器量、能力であることも否定できない。首相はこの恥ずかしい統治能力欠如の醜態を早期に克服してほしい。
毎日新聞 2009年6月6日 東京朝刊