定年退職後はあちこち温泉旅行などを楽しむ。こんなささやかな願いも、かなえるのが難しくなっているようだ。
先日、政府が公表した2008年度の観光白書によると、泊まりがけで国内観光に出掛ける回数が減少傾向にあるという。特に1人当たりの旅行回数が最も多かった60代では、ピーク時の04年度から07年度には19%も減って1・86回になった。
減少の理由について白書は、60代を迎えた団塊世代が老後の生活設計などに不安を抱き、旅行への意欲が薄れていると分析する。さもありなんという気がする。年金問題と無縁ではあるまい。
04年度といえば、ちょうど年金制度改革が決まった年である。支払う保険料を段階的に引き上げる一方で、将来の給付水準は低く抑えるという内容だ。与党幹部は「百年安心の年金になった」と豪語していた。
少子高齢社会の中で、現行の年金制度を維持するには必要な措置だったのかもしれない。だが、国民からすると保険料が増えるのに支給額は減るわけで、将来不安が募るのは当然だろう。
改革5年後の今年行われた厚生労働省の検証では、想定した給付水準の維持さえ不安定なことが明らかになった。与党から「百年安心の年金」という言葉は、とんと聞かれなくなった。国民の目線で抜本改革が必要だ。