ウルトラレオ 020 






 朝。朝食。

乙女
「安心しろ。納豆は入れていない」

レオ
「じゃあこれ」

 もぐもぐ。ソース味。朝からメンチカツ。
 おいしいけどね。

アナウンサー
『――ミニチュア・ダックスフンドの九割以上がどうしようもない駄犬であり、その飼い主たちは総じて脳に何らかの欠陥を持っているという事実が政府の調査で明らかになりました』

乙女
「今日は金曜なわけだが、新メンバーの件は上手くいきそうか?」

レオ
「うん、ばっちり」

 笑っておにぎりを頬張るレオを乙女さんは訝しげに見やった。

乙女
「つまらん見栄は自分を追い詰めるだけだぞ」

レオ
「すみません。今週中は無理そうです」

 結局昨夜はくたびれ儲け。ターゲットが駅前から去ったのは、間もなく終電が終わろうかという時間だった。
 たまたま帰り道が同じだったレオは、“フラワーショップ椰子”の所在地を確認できただけである。

乙女
「人手不足はある程度解消されているんだ。別に今週中にこだわらなくてもいいんじゃないか」

レオ
「まあ、そうなんだけど」

乙女
「そうだろう。諦めも肝心だとは思うが、諸葛孔明の例もあるしな」

(すでに対面して、むべもなく断られてるんだけどね……)

 彼のようなインテリモラトリアム人間なら、まだ登用の余地があったかもしれない。
 姓は椰子、名はなごみ。世俗を嫌う孤高の士。武力と魅力は高そうだが、おそらく漢室を鑑みないタイプだろう。
 張飛でも曹操でもノーチャンスで、そもそも舌戦に持ち込めないし、もちろんレオに劉備のような人徳があるわけもなく、

厳白虎
「……パワーアップキットさえあれば」

趙雲
「なんだそれは?」





 ――放課後。
 と、一気に時間は飛んだわけだが、無為に時間を過ごしたというわけではない。
 館長の授業以外はすべて欠席し、思いつく限りの戦法を試していたのだ。
 不屈の戦士、対馬レオ、孤独の戦いをダイジェストで振り返る。

レオ
「教科書忘れたー椰子さん見せて」
なごみ
「下です。二年の教室」
レオ
「あれ、そうだっけ」
なごみ
「……」

 机を寄せ合い仲良くなるパターン。
 彼女の視線は窓の外で、レオは見慣れぬ男性教師としばし見つめ合った。

レオ
「……思えばそれが大きな分岐点だったんでしょうね。一時は自殺まで考えていた私が、今では素敵な恋人もでき、だめ元で購入した万馬券が当たり、オーストラリアに別荘を建て、ウハウハな毎日です。信じられないかもしれませんが、どれもこれも執行部のお導きなんですよー」
なごみ
「すいません。そういう話は他でしてくれませんか? 真面目にやってる人達の邪魔になりますので」
女教師
「あの、対馬君……」
レオ
「はい。すぐ消えます」
女教師
「ちょ、ちょっと待って! 今の話を詳しく聞きたいんだけど……」
レオ
「えっ?」

 週刊誌の広告っぽい勧誘法。
 椰子さんには通用しなかったが、広瀬りんご先生(33歳・独身)が見事に釣れてしまった。

レオ
「屋上で昼ご飯か……執行部入るぞ。今日は天気いいから気持ちいいよね」
なごみ
「……」
レオ
「唐揚げとかすげー美味しそう。執行部入るぞ。昼はいっつもパンだからさー、執行部入るぞ」
なごみ
「……」
レオ
「執行部入るぞ。執行部入るぞ。執行部入るぞ。執行部入るぞ。執行部入るぞ。執行部入るぞ。執行部入るぞ――」

 サブリミナル効果を用いた勧誘法。
 彼女が立ち去った屋上で、レオの腹の音が小さく鳴った。
 乙女さんが持たせてくれたお弁当(おにぎり)をいただいた。もう少し頑張れると思った。
 呆れ返って、断り疲れて、気の迷いで、まかり間違って、もしかしないかな、くらいの気持ちで。

 ガラッ。

レオ
「執行部に入る権利を与えよう」
なごみ
「いりません」

 ピシャッ。
 ガラッ。

レオ
「ところであなた、執行部に入らないと地獄に落ちますよ」
なごみ
「上等です」

 ピシャッ。
 ガラッ。

レオ
「椰子結婚してくれ!」
なごみ
「……」

 ドガッ。
 トゥーキックされた脛を擦っていると、したり顔のフカヒレに慰められてしまった。
 そういった出来事を経ての放課後であるので、レオはソファにもたれてぼんやりと観葉植物を眺めていた。
 レザーがきしみ、座面が一瞬だけ沈む。目線を動かすまでもなく、高貴な薔薇の香りがした。

エリカ
「どう、あの娘は。登用できそう?」

レオ
「とっても無理そう」

エリカ
「あら、弱気じゃない」

レオ
「万策尽き果てました」

 そもそも“策”と呼べるほど真っ当なものは一つもなかったが。

エリカ
「嘘おっしゃい。対馬クンらしい手段は何一つ使ってないじゃないの」

レオ
「俺らしい?」

エリカ
「んー、例えば――」

レオ
「言わんでいい」

 『かなり後味が悪い方法(クエストアイテム:屋上の鍵)』
 『お天道様に顔向けできない方法(クエストアイテム:ひも状の物、大きな袋、XXX等)』
 ぱっと思いつくところでこんな感じだが、そっち系のエピソードは本編を五本以上購入されたお客様に送付される“お返しディスク”に期待して欲しい。

エリカ
「言わなくてもわかってるなら、ちょっとは本気出しなさいよ」

レオ
「へい」

 姫はふっと小さく息を吐いた後、レオの耳元で囁いた。

エリカ
「よっぴーなんか、明日のために色々準備してるみたいだし」

レオ
「ふーん、なんの?」

エリカ
「メインディッシュ」

レオ
「へえ」

 紙束を抱えた佐藤さんが部屋に入ってくると、姫はデスクワークに戻った。

(フン、わかってんだよ……どうせ……)

 期待は裏切られる。空しさと後悔だけが残る。
 それでもまぶたを閉じれば、魂は静かに燃えていた。
 皿の上で全裸の佐藤さんが手招きしていた。
 イモータル。インビンシブル。パーペチュアル。
 幾千幾万、地に伏せようとも、獅子の魂は決して死なない。
 燃え盛る下心のある限り、レオは屋上への道を歩むのだ。
 Eye of the Tiger(心のBGM)。

新一
「そろそろやらかす、に千円。賭けにならんけどね」

きぬ
「幼馴染のよしみで“そんなことする人には思えなかった”ってコメントしてやんよ」

レオ
「ありがとよ」

 カニとフカヒレに見送られ、屋上のドアを開ける。
 少し湿気を含んだ空気、梅雨入り前の快晴が目の前に広がる。
 再三の勧誘に辟易しているだろうに、果たして彼女はここにいた。
 潮風に揺れる黒い髪。肩越しにこちらを見やった後、彼女は青い景色に背中を向けた。

レオ
「屋上好きだね」

なごみ
「センパイが来るかと思って」

 そういう台詞は、微笑ないし頬を赤らめて言って欲しいものである。
 気の弱い男子なら回れ右しそうなほど冷え切った眼差し。
 いつもの場所で待っていた下級生。続く言葉は愛の告白であろうはずがない。

なごみ
「いい加減ウザイんですけど」

(ウザけりゃさっさと帰ればよかったのに……)

 怒らせるだけなので口には出さずに笑顔でやり過ごす。

なごみ
「……何か恨みでもあるんですか」

レオ
「ないよ。あるわけないじゃん」

なごみ
「なるほど、終日の嫌がらせは断られた腹いせですね。これ以上付きまとうなら本格的に排除させていただきます」

 指関節こそ鳴らしはしなかったが、ストリートファイト云百戦の経験が荒事の雰囲気を感じ取った。

レオ
「……嫌だったら担任に相談とかしない? 普通」

なごみ
「密告(ちく)るとか趣味じゃないんで」

レオ
「いいね。降りかかる火の粉は自分の手で振り払う。そういう気骨のあるところに執行部魂を感じてやまない。どうだろう、生徒会――」

なごみ
「……」

 椰子さんの前進に合わせてレオは後退した。
 彼女の一歩は明らかに“歩み寄る”一歩には見えなかった。
 茶番に付き合えるだけの心理的余裕がないのだろう。ストレスを与え続けた当事者だからこそ理解できる。
 どうどう、両手のひらを向けるレオ。椰子さんは不快げに目を細めた。

レオ
「ぶっちゃけ、無理だろうとは思ってるんだけどね。こっちにもやめられない理由があったり」

なごみ
「理由?」

レオ
「うん。実はね――」

 レオは自分が生徒会入りした経緯を正直に話し、姫の偏執性と残虐性を脚色して説明した。
 椰子さんの勧誘はレオに下された絶対命令であり、これを成功させなければ命さえ危ういペナルティが待っている、と。

なごみ
「そんなの知りませんよ。だいたい、なんであたしなんですか?」

レオ
「君が美人で、姫が気に入ったから」

なごみ
「……」

レオ
「できるだけ迷惑かけたくないんだけど、俺も自分の身は可愛いっていうか……だから、君が折れてくれないとずっと今日みたいな感じになっちゃうんだ。……ごめんね」

なごみ
「脅してます?」

レオ
「うーん、そう取られても仕方がないかな……でもちょっと想像してみて。もし俺が諦めるでしょ……そしたら当然姫が出てくる。アレってすぐにでも実力行使に出そうな雰囲気だったし、十中八九ダークスーツの工作員っぽいのに狙われるよ」

なごみ
「ありえない話だと思いますが、それって普通に犯罪ですよね」

レオ
「明るみになればね。松笠市警も神奈川県警も優秀だから、事件が起こった後なら確実に動いてくれるだろうし」

なごみ
「……やっぱり脅してますよね?」

レオ
「脅すっていうか最悪を想定しただけ。まあ、さすがにそこまでの大事にはならないだろうけど、今より鬱陶しいことになるのは確実だから……」

 口ごもって下唇を噛む。椰子さんは眉をピクリと動かして、続きの言葉を待っている。
 クールな表情からは恐れも気負いも感じられない。レオであれ姫であれ、火の粉は払ってしまうのだろう。
 こちらに向けてキリキリと引き絞られた弓。立会いを待つ絶好調の千代大海。三秒後の結果は火を見るより明らかであった。

レオ
「平穏な学生生活のためにも、生徒会に入りまし――」

なごみ
「嫌です」

 すがすがしいまでの拒絶に、レオはふっと笑みをこぼした。ダメだこりゃ。

レオ
「哀れな男を助けると思って」

なごみ
「遠い異国の出来事だと思うようにします」

レオ
「……土下座、しようか?」

なごみ
「じゃあ、後ろ頭踏みつけてもいいですか? もちろんあたしの答えは変わりませんが」

 皮肉だけは薄ら笑いで饒舌に。
 話せば話すほど、生徒会向きの人間に思えて仕方がない。

レオ
「もしかして俺個人が嫌いですか」

なごみ
「誰が来ても同じですが……。正直言って嫌いですね。近年稀に見るレベルです」

レオ
「いや近年稀って、フカヒレよりはマシでしょ?」

 さすがに。大げさな。そんな馬鹿な。

なごみ
「ふかひれ?」

レオ
「あー、ちょっと前にお邪魔した、眼鏡かけた猿顔の……えっと、とにかく変な奴ね」

 脳検索でフカヒレを割り出せたのか。
 二度三度うなずいた後で、椰子さんはニヤリと口角を吊り上げた。

なごみ
「おめでとうございます。ウザさではセンパイの足元にも及びません」

レオ
「あれま」

 ほほえみを絶やさないレオではあったが、ガラスの割れる音が胸に響いていた。
 『フカヒレ以下』。彼をよく知る人間だからこそ、その烙印は致命傷になり得る。
 なんだか暴れ出したいような、フェンスを飛び越えたいような、レオは緩やかに自我を失いつつあった。

レオ
「そんな俺はどうしたらいい?」

なごみ
「消えてください」

 しっしっ、と手で追い払われる。
 モハヤコレマデ。ギクシャクと回れ右して、レオは頬をひくつかせながら屋上を後にした。

(……どうしてくれよう)

 階段の途中で立ち止まり、出てきたばかりのドアを振り返る。
 “いけません。それでは名実ともにフカヒレ以下になってしまいますよ”。
 “クソ生意気な一年だ。構うこたぁねぇや”。
 天使と悪魔に耳を預けつつ、ポケットに手をつっこむ。
 金属の指触りは勝利の鍵。鬼畜道、退くか進むか分かれ道。
 ……。
 ……。
 ……。

(……よし)

乙女
「一応校則違反なんだぞ。用もないのに屋上に出るな――ん? レオじゃないか。こんなところで何をしてる」

 風紀委員の赤い腕章と、抑止力の日本刀。
 タイミングが良いような悪いような、乙女さんとの遭遇だった。

レオ
「ちょっと青春の岐路に立ってます」

乙女
「む、巡回中なんだが……少しここで待っていろ。話はちゃんと聞いてやるから」

 とりあえず作戦は延期します。





 適当に取り繕った禅問答のような相談事にも、乙女さんはいたって真剣で乗り気だった。
 “結果は大事だが、過程を無視しては人に認められることはない”。
 レオの心に残った一言は、どんな話から導かれたものだったのか。
 拳法部の後輩が呼びに来なければ、いったい何時まで続いていたのだろうか。
 説教好きに安易なネタフリは、実に危険な行為である。

(夕日が目に染みるぜ)

 徒労感やら敗北感やら罪悪感やらで。
 さっさと帰って横になりたい。しかし鞄は竜宮に置いてある。

レオ
「……はぁ」

 公園で時間を潰したダメ営業マンの心境で、ドアを静かに開ける。
 怖い上司がいないことに胸を撫で下ろすと、茜色の生徒会室へ足を踏み入れた。

レオ
「ただいまー」

良美
「お帰りなさい」

 なんだか夫婦のようなやり取り。まるで若奥様のような佐藤さんのほほえみ。
 美少女の薬効成分により、内からじんわりと温かくなる。自然と顔もほころぶ。
 直前までの暗澹とした気分はどこに行ったのか、自分でも不思議だった。

レオ
「他の人たちは?」

良美
「帰ったよ。エリーは私用で伊達君は部活」

レオ
「カニとフカヒレは?」

良美
「ドブ坂でライブがあるんだって」

(あぁ、そんなこと言ってたな……)

 仕事をサボってライブ。褒められたことではないが、特に責め立てることでもない。
 おかげでレオと佐藤さん、夕暮れに二人きり――。

誰?
「アンタはどこほっつき回ってたのよ」

 まったく友好的でない。不良がたむろするコンビニの前で流せばよさそうな声。
 レオはまぶたを擦った。書類が積まれたテーブルには佐藤さん。その隣にぼんやりと何かが……。
 何かが浮か上がってきたので、レオは慌てて視線を戻した。佐藤さんは愛らしい仕草で小首を傾げた。

レオ
「二人きりだね」

素奈緒
「アタシが見えないのか! すぐ側にいるのに!」

 ラブイズブラインド。意外なシルエットはツインテールの彼女で、なぜか大きめの判子を持っていた。
 なんでこいつがいるのだろう。どこから入ってきたのだろう。疑問は尽きない。
 野生の近衛といきなり目を合わせるのは危険なので、とりあえず佐藤さんに尋ねてみる。

レオ
「なんで?」

良美
「なんでって、ナオちゃん?」

レオ
「うん。ナオちゃん。なんで?」

素奈緒
「お前が呼ぶな、気持ち悪い。アタシはただ――」

 近衛が何事かを陳情に来た。部屋には佐藤さん一人だった。一人で大変そうだった。そういうことらしい。
 レオが含み笑いを向けると、近衛は「何よー」と八重歯を剥いた。

レオ
「相変わらずいい奴だな。ノーベル賞でも狙ってんのか?」

素奈緒
「アンタらが悪い奴なだけでしょ。佐藤さんにだけ押し付けて可哀相じゃないの」

良美
「あはは、私は大丈夫なんだけどね」

 苦笑いする佐藤さん。
 このまま帰るのはさすがに薄情なので、レオは佐藤さんの対面の椅子を引いた。

レオ
「何か手伝えることはある?」

良美
「もうすぐ終わるからホントに大丈夫。対馬君はゆっくりしてて」

素奈緒
「下心出すなら、もう少し早く帰ってきなさいよ」

 近衛の言葉が佐藤さんの本音だったら怖いが、姫の居ぬ間になんとやら。

レオ
「微妙な時間だから帰りは送ってくよ」

良美
「ありがとう。紅茶でも飲んで待っててね」

 断られることには鈍感になっていたが、レオは内心ほっとして席に着いた。
 入れ替わりに席を立ったかいがいしい佐藤さん。ブツブツ言いながら手元の書類に判子を連打する近衛。
 ピクチャーウィンドウの夕暮れを眺めることしばし、近衛に話かけようとするタイミングで淹れ立ての紅茶が運ばれてきた。

良美
「ごめん対馬君、お菓子はカニっちと祈先生が……」

素奈緒
「いいわよもう。おい偽善者、アンタは霞でも食ってろ」

 椰子さんといい近衛といい、女子から蛇蝎の如く嫌われるのはフカヒレよりもレオなのかもしれない。
 原因はなんとなくわかる。あまりに紳士的過ぎて、逆に鼻につくとかだろう。誰にも言われたことはないが。
 レオは熱い紅茶をチビチビと飲み、空中を摘まんだ指を口元に持っていった。
 もそもそと咀嚼する。それを三回ほど繰り返せば、東にこの人ありと謳われた名ツッコミが見過ごすはずもない。

素奈緒
「何やってんの?」

レオ
「霞食べてんの」

 シュパッ、もそもそ。シュパッ、もそ。

素奈緒
「おいしい?」

レオ
「うん」

 レオは元気よく弾むように答えた。
 小気味良い掛け合いを期待していたのだが、近衛はため息混じりで鞄を漁ると、可愛らしい紙袋をこちらへ寄越した。

素奈緒
「目障りだからそれでも食べてなさい」

 はてさて袋の中身は……、キツネ色の、クッキー風のもの?
 形が多少いびつで色もまばらで、お菓子工場ではきっと弾かれてしまう運命だろう。
 摘み上げて凝視していると、仏頂面の近衛がぼそっとつぶやいた。

素奈緒
「死にはしないわよ」

 そういうことならパクリと一つ。カキ、コキ、バキ。
 やたらと硬くて香ばしい。ほのかに甘い戦前のお菓子?
 カリ、ポリと骨を砕くような音を立てて、吟味しつつ胃の府に収める。
 こちらをにらんでいた近衛と目が合うと、レオは紅茶の前に感想と疑問を口にした。

レオ
「おいしいけど、これ何? 乾パンじゃないよね?」

素奈緒
「違う。それは家庭科で作った……い、犬の餌」

 近衛はそう答えると、判子を黙々と押していく仕事に戻った。
 タム、カリ、ポリ、カリ、ポリ、タム。
 女の子の手作り(カニを除く)なら、犬の餌でも嬉しいものである。
 カリ、ポリ、カリ、ポリ。なんだか、顎も鍛えられそうであるし。
 近衛め。口では嫌い嫌いと言いながら、可愛い奴ではないか。
 カリ、ポリ、タム。

素奈緒
「気が散る! もっと静かに食わんか!」

レオ
「ばふ」

 厳しい奴である。しかし近衛はこうでなくては。

良美
「……」

レオ
「わうわう、わんわんお?」

良美
「え? な、何かな?」

レオ
「佐藤さんも食べる? 犬の餌」

良美
「わ、わん」

 ほほっ、可愛い奴よのう。





――鈍意執筆中。