今朝(12月13日)の朝日新聞を見て、一瞬、目を疑い、すぐさま、のけぞってしまった。「大佛次郎論壇賞」(朝日主催)に岩下明裕・北大教授が選ばれたとの記事だ。民間の新聞社が勝手につくった賞を誰に与えようと、それこそ勝手である。しかし、岩下氏は日露関係専門家筋の間で北方領土問題の「3島返還論」者として知られる学者だ。受賞作もズバリ「北方領土問題」(中公新書)という。民間賞とはいえ、領土問題という国益・国家主権が直接絡んだテーマとなると、これは見過ごすわけにはいかぬ。
朝日の記事の前文によると、この著書は「中ロ国境問題の、妥協への道筋を丹念にたど」り、「それを合わせ鏡のように参照しながら、北方領土問題解決への方策を探る豊かな提言性が高く評価された」のだという。レトリックはもっともらしいが、バカをいうな。
中ロ国境紛争と北方領土問題では歴史的経緯が全く違う。日本固有の北方4島は他国の領土になった過去はなく、スターリンが終戦直後に一方的に不法占拠したことだけが原因の領土問題であり、中ロ国境のように、日ソ(露)双方に非(原因)があったような問題の立て方自体がそもそも間違っている。中ロがうまくいったから、これを北方領土問題にも適用したらどうか、つまり、いつまでも4島にこだわっておらずに妥協の途を探れという論法は、日本の大原則を放り出し、千載に禍根を残す途にほかならない。
このことを選考委員の誰一人として述べていないのは、驚くべき本質回避的な思考といわねばならない。「両国が同じような熱意と誠意を見せれば和解は可能であることを示唆している」と書いている先生もいる。何とロシア(ソ連)の本質を解さぬ無責任な談話であろう。「熱意と誠意」を誰がどう見せればいいのか、具体的に示してほしい。特にいまのKGB政権(プーチン政権)に対して、「熱意と誠意」をみせてどういう効果があるのか。
岩下氏自身、記事の中で「4島返還以外の道を考えずにここまで来て、何か一つでも得たものがあったでしょうか」という。では、例えば「3島」を返してもらったとして(これとて技術論的にロシア相手にどれほど気の遠くなるような時間がかかるか、考えたことはあるのだろうか)日本は何が得られるのだろうか。3島か、4島か、問題の本質はそんなバナナの叩き売りとは違う。(ひとつだけ、岩下氏に同意するなら、外務省の役人は確かに「4島」「4島」と呪文のように唱え続けていれば、どうせ近い将来、4島は返ってこないのだから、結果的に何も仕事などしなくて済むだろう)。日本は「3島」をとり、「4島」を放棄することで、世界に「国家の根幹にかかわる大原則を平気で捨て去る国」とのイメージを植え付けてバカにされ、これを格好の前例として、爾後、あらゆる問題で原則から逸脱した解決を迫られることになろう。まさに「3島亡国論」と相成るのだ。
ソ連崩壊から今月で15年。今は、腰を据えてロシアの動向と「4島」奪回へのしかるべきタイミングを見極め、グランド戦略を練り上げる時期で、焦る必要は毛頭ない。「2島」や「3島」論者も、「2島」「3島」なら容易に返ってくる、などという幻想からは決別した方がよい。
朝日の今回の岩下氏への授賞は、「3島」への巧みな世論誘導のような気がしないでもない。今回の授賞と受賞は朝日だけの内輪の話にしてほしいものだ。
それにしても麻生外相までが「3島」に共鳴したような発言(再任直後の報道各社インタビュー)をしているのは、どうしてしまったのだろう。これは外務省ロシア課が無定見で、国益意識どころか、全く機能していないことを如実に示している。
と、ここまで肩に力を入れて書いてきたが、
よく考えると、所詮、朝日の賞なのだ。初めから限界があった。
岩下さん、なにはともあれ、あの大「朝日」から賞をいただき、おめでとうございました!!
by iza777
エストニア問題とロシアのまや…