行き着けなくても一日一歩の気構えで。たそがれおやじの覚醒。
日暮れて途遠し



昨日の朝日新聞で岩下明裕北海道大学教授の『北方領土問題』が第6回大佛次郎論壇賞を受賞したという解説記事と、夕刊では氏の「受賞に寄せて」が掲載された。
先頃の日ソ国交回復50年フォーラムをめぐる記事や麻生外相の発言、若宮敬文論説主幹の記事などに続く動きである。大佛次郎論壇賞は朝日新聞社主催なので一連のキャンペーンでもあろうが望ましい動きと思う。
佐藤さんはFujiSankei Business i. 2006/10/19 で
「北方領土」に隘路の懸念/三島返還論が巻き起こした混乱で余計なことを言ってしまった例が「三島返還」論だと言っているのだが、
日本の論点2007 変質する社会(文藝春秋社2006.11.6発売)
論点14 北方領土は返ってくるか 佐藤優
「東京宣言至上主義」を脱し、論理的、現実的な四島返還論を構築せよ。
では、参考図書として岩下氏の『北方領土問題』をあげている。 このあたり難しいところだ。

岩下氏の「受賞に寄せて」は共感できる内容であると思う。鈴木宗男さんの記事、麻生発言などとあわせてコピーさせていただきました。

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●岩下明裕(北海道大学教授 ロシア外交)
大佛次郎論壇賞受賞に寄せて

日ロ国境50・50の勇気を/確執乗り越える折り合いの精神

2006.12.13朝日新聞 夕刊

この度、拙著『北方領土問題』が大佛次郎論壇賞を受賞するという栄に浴した。研究者として世に問うた本が認められたことはうれしい。だが喜びは半ばだ。

中ロなしえた相互譲歩

本書の礎となったのは、私が10年来、追跡してきた中国とロシアの国境問題をめぐる交渉プロセスの研究である。4千キロを超える中ロ国境の対立は厳しく、90年代、ロシア極東や中国東北の現地調査に訪れるたび、ロシア人と中国人の相互不信の根深さを思い知らされた。
04年10月、中ロが、それが原因で60年代末に軍事衝突まで引き起こしたアムール河とウスリー河の三角州を、「フィフティ・フィフティ」の原則で分け合ったと聴いたとき、耳を疑った。中ロ両政府は厳しい情報統制をしいていたからだ。
「フィフティ・フィフティ」の相互譲歩は、「勇敢なナショナリズム」の標的になる。「時代は中国に有利。なぜ、半分で妥協する」。中国のナショナリストたちは怒った。「実効支配しているのになぜ半分も渡す。弱腰だ」。ロシア人も騒ぐ。
「フィフティ・フィフティ」。
これは中国と中央アジア・ベトナムなどにも適用され、今やユーラシアの国境問題解決策として注目されているが、国内政治に利用されやすい。中国と領土を分け合ったクルグズスタン(キルギス)では、これがアカエフ政権打倒に至る騒擾の遠因ともなった。
中ロが相互に譲歩しえた最大の理由は、60年代前半の交渉失敗が後の軍事衝突に直結した鮮烈な記憶をもつからだ。「全てかゼロか」。譲歩なき闘いは戦争に至る。この教訓をもとに、彼らは折り合うことに成功し、莫大な平和の配当を手にした。
日ロ間に「フィフティ・フィフティ」は適用できるか。出来ると私は考えた。本書は「フィフティ・フィフティ」に基づき、日ロが相互に譲歩して平和の配当を受け取るシミユレーションを行った。これによって日本は国家としての威信や国益を十二分に守れる、国境地域の住民や旧島民たちの多くもこれを受け入れうるという結論を得た。
しかし、中ロのケースと違い、両政府が決断しえないのは、皮肉なことだが、日ロが北方領土をめぐり軍事衝突した過去も(おそらく将来の可能性も)ないという点にありそうだ。「全てかゼロか」。このまま平行線でも深刻な問題など生じそうもない。相互に歩み寄る必要はここには乏しい。

英断を国民は支持する

私はこの種の閉塞状況に一石を投じたいと思った。本書の影響かどうかはわからないが、昨今、少なからぬ専門家や政治家たちが「フィフティ・フィフティ」を日ロ関係に応用したケースについて、それぞれ持論を主張し始めた。現実に問題を解決するために、これは通過しなければならないプロセスだろう。
中ロと異なり、日本での情報統制は容易でない。日ロが「4と0の間で折り合う」ことが可能かどうかは、国民の理解が不可欠だからだ。
本書刊行後の反応をみて、政府が英断をもって問題解決の道を踏み出せば、国民は支持すると私は確信する。これまで私に寄せられた批判はすべて建設的なものだ。真剣に問題解決を願う人々の良識に励まされた。
だが今後、交渉が具体化し始めれば、困難は大きくなろう。
日ロ交渉はこれまで様々なリークや政治的確執によって頓挫してきた経緯をもつ。私はその兆しをすでに一部報道に見いだし、憂いを感じる。「全てをとれるまでゼロで待つ」。「一歩も譲るな」。「勇敢さ」は敬意に値するが、より重要な利益を守るために、時には折り合う勇気をもたねばならない。国内の様々な対立や確執をどうやって乗り超えたらいいのだろう。互いに折り合う精神はまた国内政治にも肝要だ。本書のもう一つのメッセージは実はこの点にある。
本賞の受賞を機会に、私は北方領土問題にしばらく口を閉ざそうと思い始めている。日ロ政府間の現実的な交渉を少し静かに見届けたい。逆説的だが、本書の存在が忘れられたときにこそ、日ロの国境問題は解決する。そして、私は今日の喜びの半分をその日のために残しておきたい。

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●2006年12月14日(木) 鈴 木 宗 男

 麻生外相が13日の衆議院外交委員会で、北方領土問題について面積で二等分する案が解決策の一つになるとの認識を示しているが、今までとは違ったアプローチで面白い。9月28日の毎日新聞2面でのインタビューで、初めて面積での話をしており、麻生外相としてのスタンスなのだろう。ロシア側に日本の柔軟性をアピールすることも大事である。
 この麻生外相の話に、「外務省は『政府の立場に変更はなく、個人的な考えだ』としている」(読売新聞2面)と言っているが、麻生外相は政府の外交の責任者である。自分達のトップの発言、しかも国会での委員会での答弁をなんと心得るのか。この点、外務官僚の不作為が感じられる。組織として外交専門家が大臣を守るという気概がなくしてどうするのか。麻生外相はしっかり信賞必罰を考えなくてはならない。
 私は、面積割りも一つの考えだが、北方四島を知床と一緒に世界遺産にすることも日ロの協力提携になるし、アイヌ民族を北方四島における先住民族としての権利を認めてもらうことも、北方四島問題解決の一つのアプローチになるのではないかと思う。色々知恵を出すことによって動くのである。麻生・谷内ラインで思い切った国益優先の対ロ外交を展開してもらいたい。
 13時半から公判。やまりん事件に関し、私への尋問だったが、弁護士は日程、会合等で新たな事実関係を提起して下さり、真相解明に大きな一歩になるものと考える。そもそも無理強いの国策捜査であり、やまりん事件は専門家、検察内部からも筋悪案件だったと『歪んだ正義』を書いた宮本雅史さんや魚住昭さんが言っている。これからも真実をしっかり訴えていきたい。少なくとも北海道の皆さんは、やまりん事件の何たるかは分かっているはずである。

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YOMIURI ONLINE
(2006年12月14日3時34分 読売新聞)
● 北方領土解決へ4島「面積で2等分」…麻生外相が私案

 麻生外相は13日の衆院外務委員会で、北方領土問題について、北方4島(択捉、国後、色丹、歯舞)全体の面積を2等分する境界線を日露両国の国境とする新たな解決案を示した。

 民主党の前原誠司・前代表が「4島を(二つに)分けても、4島とも日本の領土に入るという認識が必要だ」と指摘したのに対し、外相は「北方領土を半分にしようとすると、択捉島の約25%と、残り3島をくっつけることになる。面積も考えず2島だ、3島だ、4島だというのでは話にならない。現実問題を踏まえて交渉にあたらなければならない」と述べた。

 外相はさらに、「ロシアのプーチン大統領は強い権力を持ち、領土問題を解決したい意欲もある。この人のいる間に決着を付けなければならない」と語り、大統領の任期が切れる2008年5月までに解決の道筋を付ける意向を強調した。

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YOMIURI ONLINE
(2006年12月14日20時24分 読売新聞)
●「4島を2等分」麻生外相案、ロシアでは賛否半々

 【モスクワ=緒方賢一】北方領土を面積で2等分して日露が領有するとの麻生外相が示した解決案について、ロシアでは賛否がほぼ半々に分かれていることが14日、ラジオ局「エコー・モスクワ」の緊急調査で示された。

 部分的にせよ領土を返還することへの拒否反応は依然、強いといえる。

 「日本との領土問題を最終的に解決するため4島を2等分することに賛成か」との設問に、「賛成」は約52%、「反対」は約48%だった。ラジオでの質問に1100人あまりの聴取者が電話とインターネットを通じ回答した。

 「日ソ共同宣言」(1956年)には、平和条約締結後に歯舞と色丹の2島を日本に引き渡すと明記されているが、「プーチン政権が2島でも引き渡すと思うか」との問いには約65%が「渡さない」と答え、「渡す」は34%だった。

 ロシア外務省は麻生外相の案に公式の反応を示していないが、日本専門家の間からは「問題の本質を理解していないナイーブな人の発言」などと批判が出ている。

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●北方領土「面積で日ロ2等分」案 麻生外相が示す
Asahi.com2006年12月14日12時18分
(夕刊の表現に並べ替えました)
 
 麻生外相は13日の衆院外務委員会で、北方領土問題の解決策として、「択捉島の約25%を(国後、色丹、歯舞の)残り三島にくっつけると、50(対)50の比率になる。双方が納得する形で解決しないといけない」と述べ、四島返還を主張するだけでなく、面積を2等分するなど具体的な解決策を日ロ双方が模索すべきだとの認識を示した。

塩崎官房長官は14日の記者会見で、麻生外相が北方領土問題で北方四島の面積を2等分する解決策を探る考えを示したことについて、「基本的に申し上げた政府のスタンスから麻生外相も応答したのだろう」と語り、四島返還を求める政府方針は変わらないとの考えを示した。

★FACTA あだ名は「インテリ長官」塩崎官房長官は力不足か

★週刊文春2006.12.21号(12/14発売)でも
「インテリ(笑)塩崎官房長官、背伸び事件と頭髪問題」
という記事で徹底的にこき下ろされています。

●斉藤勉のウォッカ酔夢譚
「3島返還論者」に大佛次郎論壇賞ですって!?
正論調査室長&産経新聞論説委員の斉藤勉氏ですね。佐藤さんが一番苦しいときに手を差し伸べてくれた「元主任分析官『佐藤優』を考える/彼の力量 誰が認めたか」という一面記事を掲載してくれた人ですね。その縁で国家の自縛出版や別冊正論への寄稿が続いているように思います。が、「あなたの対露方針については反対だけれども、僕の佐藤優に対する信頼感と尊敬はいつまでも変わらないよ」というやっかいなヒトですね。

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●岩下明裕氏(44 北海道大学教授)
第6回大佛次郎論壇賞 贈呈式来年1月29日

2006.12.13朝日新聞(朝刊)

第6回大佛次郎論壇賞(朝日新聞社主催)は、北海道大学スラブ研究センター教授、岩下明裕氏(44)の「北方領土問題」(中公新書、税込み882円)に、また同奨励賞は東京大学社会科学研究所助教授、本田由紀氏(41)の「多元化する『能力』と日本社会」(NTT出版、税込み2415円)に決まった。
岩下氏の作品は、日本とソ連・ロシア間の北方領土問題と同様の困難さを抱えながら解決に至った中ロ国境問題の、妥協への道筋を丹念にたどる。それを合わせ鏡のように参照しながら、北方領土問題解決への方策を探る豊かな提言性が高く評価された。本田氏の作品は「生きる力」「人間力」などという言葉がなぜ世間で多用されるかを、独自の「ハイパー・メリトクラシー」という概念を使いながら説得的に解読していく。日本社会の変容を解明しようとする果敢な挑戦に、選考委員の支持が集まった。
贈呈式は来年1月29日、東京・日比谷の帝国ホテルで、朝日賞、大悌次郎賞と共に行われる。

論壇活性化と指針の一助に
小説、ノンフィクションなど幅広い分野で多くの作品を残した作家大佛次郎氏(1897〜1973)の業績をたたえ、朝日新聞社は73年に大佛次郎賞を設け、優れた散文作品を顕彰してきた。これに加え、日本の論壇の活性化に寄与し、また21世紀の針路を指し示す一助になることを目指し、01年1月、大僻次郎論壇賞を新設した。

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半世紀以上にわたって続いた中ロ国境紛争は04年、両者の相互譲歩によって最終解決した。この解決を北方領土問題に応用する道を探ったのが「北方領土問題」だ。副題の「4でも0でも、2でもなく」は、4島返還を堅持する日本と、2島返還を基本方針とするロシアの間の「フィフティ・フィフティ」を表している。
「周辺」の視点から物事を考えてきた。熊本生まれで九州大学に進み、最初は山口県立大学に就職した。国境を意識するようになったのも、アジアへの玄関ロである北九州で学生生活を送ったことが大きい。
もともとの専門はロシア外交。アジアとの関係を考えようと、90年代半ばから10年以上、毎年のように中ロ国境を訪問した。その成果は「中・ロ国境4000キロ」(角川選書)にまとめた。同書では「アカデミック・ルポ」と称し、徹底した現地取材にこだわった。
「一つの問題をスクープする力はジャーナリズムにあるが、その意味を総合的に分析するにはアカデミズムの力が不可欠。両社は協業できるはずです」と話す。
01年に北海道大学スラブ研究センターに赴任したのをきっかけに、北方領土問題に取り組み始めた。
日ロにおける「フィフティ・フィフティ」とは何か。受賞作では「2島プラスアルファ」として、2島返還及び排他的経済水域の拡大、3島返還の可能性、あるいは4島の共同利用などの道を探った。おおむね好意的に受けとめられたが、「最初から妥協可能という手の
内を見せていいのか」といった批判もあった。これに対しては「4島返還以外の道を考えずにここまで来て、何か一つでも得たものがあったでしょうか」と反論する。
旧島民や根室市民、漁業関係者を対象にした調査では、4島返還にこだわらず、一刻も旱い解決を求める声も大きい。中央のメンツに周辺を犠牲にしていいのか、という思いもあるようだ。
今後は中央アジアや南アジアを舞台に「国境政治学」に取り組んでいく。今年6月には編著書「国境・誰がこの線を引いたのか」(北海道大学出版会)をまとめた。

パワーバランスの視点でとらえられがちな国際政治だが、「国境が未画定だから総争が発生するし、画定していても、人の移動で様々な問題が起こる。国境が原動力となる国際政治があるはずです」。例えば国境周辺の緊張緩和のため発足した中ロと中央アジアの国々による首脳会議が、01年、地域協力機構「上海協力機構」に格上げされ、今ユーラシアをとりまく国際政治の焦点となりつつある。
多忙な日々だが「現地の情報を大事にする姿勢はこれからも保ちたい」という。
(鈴木京一)



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