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2009年05月09日

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<「足利事件」とDNA鑑定>佐藤博史弁護士に聞く(7/10)



Q 押田鑑定は最高裁の段階ですでに得ていたものですが、再審請求の際の新証拠になるのですか。

 判決が確定するまでの確定審の段階で提出された証拠は、原則として再審請求の新証拠になりません。無罪を言い渡すことが明らかなという「明白性」と並んで、新規な証拠であるか否かという意味で「新規性」の問題と呼びます。
 しかし、最高裁は事実審ではないため、最高裁が判断の対象としなかった証拠は再審請求の新証拠になり得るという考え方が一般的で、私たちも押田鑑定は新証拠になり得ると考えました。
 そして、この点については宇都宮地裁の棄却決定も、押田鑑定の新規性自体は否定しませんでした。しかし、棄却決定は、押田鑑定の資料となった菅家さんの毛髪が本当に菅家さんのものかどうか分からないから、押田鑑定に証拠価値はなく明白性はないと判断したのです。

Q 宇都宮地裁は,何故DNA鑑定の再鑑定を命じなかったのでしょうか。

 これも裁判長の池本寿美子裁判官に聞いてみないと分かりませんが、本件のDNA鑑定が正しい型判定をしたものではないことを認めながら、「一致」することに変わりはないとした東京高裁判決があったこと、最高裁が押田鑑定が提出されたにもかかわらず、再鑑定を命じないで上告を棄却したことが重くのし掛かっていたのではないかと思います。
 ほかに、DNA鑑定の再鑑定を命じるということは、当時のDNA鑑定に問題があると裁判所が考えたことを意味しますので、科警研の権威を傷付けたくないという配慮もあったのかも知れません。しかし、所詮、権威をとるのか、真実に忠実であるべきかという問題です。
 池本裁判長の前任の飯渕進裁判長は、私たちの申立を認めて、半袖下着の保管替えを命じ、DNA再鑑定に備えてくれましたので、池本裁判長によってDNA再鑑定が命じられるものと期待していました。
 ですから私は、池本裁判長から「裁判所は、DNA再鑑定を命じないで、裁判所の判断を示したいと思います」と言われたとき、DNA鑑定を命じるまでもなく菅家さんの自白の信用性には疑問が生じており、裁判所はそのような理由に基づいて再審を開始するつもりだ、と楽観的に考えてしまいました。 

Q 最高裁段階と違って、宇都宮地裁には期待していたということですか。

 そうです。特に飯渕進裁判長のときに行った鈴木庸夫・山形大学名誉教授による法医学鑑定に追加して提出した村井達哉・元慶応大学教授による法医学鑑定について、池本裁判長が証人尋問の実施を決められ、熱心に証言を聞いてもらったこと、検察官側から有力な反論がなされなかったことから期待がふくらみました。
 2008年2月13日に私は東京で宇都宮からの報告を待っていましたが、「請求棄却」と聞いて、控訴審判決のときと同じように落胆しました。菅家さんには別の弁護士が接見してすぐに結果を報告しましたが、私は翌日、菅家さんと接見しました。そのときの様子はテレビで放映されましたが、私の憔悴しきった姿を見て励ましのメールをもらったほどです。
 しかし、菅家さんはその前に結果を聞いていたからかもしれませんが、希望を捨てていませんでした。私は菅家さんから励まされて千葉刑務所をあとにしたのです。
 棄却決定に対する即時抗告の申立書は5日以内に書き上げなくてはなりませんでしたが、棄却決定を読めば読むほど裁判所の不十分な判断に怒りがこみ上げてくるのを抑えきれませんでした。

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