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2009年05月09日

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<「足利事件」とDNA鑑定>佐藤博史弁護士に聞く(5/10)



 さらに、事件当日は土曜日で、真実ちゃんの死体が発見された渡良瀬河川敷の近くには、多くの市民が集う運動公園がありました。事件当時100名を超える市民が事件現場にいたのです。警察は死体の発見が翌朝だったこともあって、当日そこにいた市民のほとんどを割り出し、それぞれの記憶を新鮮なうちに録取しました。
 そして、幼女の手を引いて土手を降り、川に向かって歩いていく不審な男を2人が目撃していました。実際、菅家さんが逮捕されるまでは、これがもっとも有力な目撃情報でした。
 ところが、菅家さんの自白によれば、自転車の後部座席に真実ちゃんを乗せて渡良瀬川の土手沿いの道を上り、運動公園脇の坂になった道路を下り、運動公園内を突っ切って河川敷近くの道路上に自転車を停め、真実ちゃんの手を引いて河川敷に向かったことになっています。が、幼女を自転車の後部座席に乗せて運動公園を突っ切り、河川敷近くの道路上に自転車を停めた人物を目撃した人物は一人もいないのです。もしその通りだとすれば、自分は菅家さんの姿や自転車を見たはずだが、見ていないと2人の「目撃者」が控訴審で証言しました。
 足利事件では、犯人を目撃した人の証言が菅家さんの自白と矛盾することから無関係のものとして消され、一方、菅家さんの自白を裏付ける目撃証言は皆無で、菅家さんの自白と矛盾する「目撃証言」が存在するのです。
 また、真実ちゃんの死体の鼻と口からは白い細かな泡が出て来ましたが、これは溺れた場合の溺死の所見で、真実ちゃんの首を絞めて殺したという菅家さんの自白と矛盾します。この点については、再審の請求審で、2人の法医学者が証言し、検察官からはこれを否定する法医学鑑定は提出されていません。
 DNA鑑定が誤っていたことが分かった現在、高裁が、この弁護側の法医学鑑定こそが真相を明らかにしたもので、自白はその意味でも信用できないと判断してくれるのではないかと期待しています。

Q そのような事実は基本的には控訴審の段階で明らかになっていたのではありませんか。それなのになぜ東京高裁で控訴棄却になったのですか。

 そのとおりですが、ひとつだけ控訴審段階では明らかになっていなかった事実があるんですよ。
 それは、菅家さんのMCT118型が真犯人と異なるのではないかと考えて、菅家さんの毛髪を用いた弁護側の鑑定を行ったのが1996年5月9日の控訴審判決後、最高裁の段階だったことです。
 もし控訴審段階で私たちがそのことを思い付き、押田鑑定を証拠に提出していたとしたら、間違いなく控訴審段階でDNA再鑑定が命じられたと思います。そして、私たちがそのことを思い付くことは可能でした。
 その結果、菅家さんと犯人のDNA型が一致しないことが明らかになれば、菅家さんは控訴審で無罪とされたに違いないのです。私は、自分の本(『刑事弁護の技術と倫理-刑事弁護の心・技・体』2007年有斐閣)で、私自身の弁護の誤りを「不適切弁護」の例として掲げましたが、私たちの弁護活動にも反省を要するものがあるのです。
 つまり、控訴審が控訴を棄却したのは、DNA鑑定の型判定が間違っていたとして、「一致する」という鑑定結果までは間違っているとは考えなかったこと、そして、菅家さんが一審の裁判官の前で自白したこと、が最大の理由だと思います。
 高裁の裁判官は、自分は犯人ではないと訴える菅家さんの供述を直接何度も聞き、自白と矛盾する多くの証拠が存在することを知っていましたから、誤判の責任を免れることはできないことも指摘しておく必要があります。

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