破壊力のない「テレビ報道番組」(角川健司=フリージャーナリスト)
2009年6月3日 リベラルタイム
TBSは今春からゴールデンタイムに、
新たな報道番組をスタートさせたが、視聴率は低調。
内容がゆるく、詰めの甘い『ワイドショーもどき』の
報道番組はもういらない
高評価のWBSだが……
報道の醍醐味(面白み)は、巨悪・不正・不条理に奥深く切り込む取材力にある。キャスターやアンカーの力量は、その到達点を的確に把握し、簡明に伝えるところにある。番組の構成、演出、技術の力、そしてキャスターの知識や教養は、コクと深みを醸し出す隠し味だ。四月下旬、「優良放送番組推進会議」が、「報道番組」を評価するアンケート調査を行ったところ、一番高い評価を得たのは、テレビ東京の経済ニュース番組『ワールドビジネスサテライト(WBS)』だった。ビデオリサーチ社の視聴率調査では、四%前後といった低いところにある番組である。これに対して視聴率では一五%前後をとっている『報道ステーション』(テレビ朝日)は、ベストテンにも入れず十三位だった。優良放送番組推薦会議は、キヤノン等大手企業二十六社で組織されている。調査は、そこの社員に対して行われたという。いわば優良企業人の回答だから、当然の結果だ。しかし、これだけで報道番組の評価を行うという姿勢は、世論をミスリードしかねない。
ジャーナリズムは野性であり、ジャーナリストは野獣(野生の動物)の本能がなければ、面白みのある成果は期待できない。巨悪・不正・不条理の匂いを嗅ぎつける感性と、それに向かって突き進む意欲が報道番組では重要だ。『WBS』が、面白みに欠けるのは、そういったジャーナリズムの覇気が感じられないからだ。それは小谷真生子キャスターの軽い笑いや、新商品のトレンド情報等では補えない。
脱「ニュースショー」
問題なのは、各局の深い内容に欠ける情報・報道番組が、さも視聴者に支持される番組であるかのようにもて囃されていることだ。『みのもんたの朝ズバッ!』(TBS)は、みのが、毎日の最新情報に切り込む番組という触れ込みだが、みの自身は、ニュースの現場には出ない。本格的な記者経験もない。巧みな話術だけで「視聴者の代表」を演じている。しかし、そういう情報・報道番組は、時に大火傷をする。二〇〇七年一月、賞味期限切れのチョコレートを再加工して販売していたとして、同番組は「不二家」を猛烈にバッシングし、みのは「廃業してもらいたい!」と、バッサリ切り捨てた。しかし、これは、全くの誤報。慌ててTBSは謝罪会見を開いたが、番組の信頼性が大きく揺らいだことは間違いない。一方、筑紫哲也が退いた後の『ニュース23』(TBS)は、共同通信の政治部長や編集局長を歴任した後藤謙次がメインキャスターに就いた。しかし、後藤は筑紫の穴を埋められないまま、今春から始まった平日夕方の新情報・報道番組『総力報道! THE NEWS』に異動。地味な性格で、あまり当たらない国会解散等の政局予想が好みのようだが、発言に社会全体の動きを洞察する厚み、深みが感じられない。ゴールデンタイムでも視聴率六%程度と、超苦戦を強いられている。「日本のニュースを変える」という意気込みでつくられた番組だが、その前に番組を変える事態に追い込まれかねない。
筑紫、後藤が去った後の『ニュース23』は、NHK出身の膳場貴子がメインキャスターに上がり、三十分番組として残された。いまでも『WBS』の二倍の視聴率は取れている。キャスターと称するアンカーが進行を仕切り、感情を露にした感想等を付け加えるいわゆる「ニュースショー」的なつくり方は捨てている。その代表例が、櫻井よしこや井田由美がかつてやっていた『きょうの出来事』(日本テレビ)のような、純粋なニュース番組だ。報道部局の取材力を結集し、事実をもっていまを切る報道番組の醍醐味を復活させてほしいものだ。
興ざめする視聴者
久米宏をキャスターに起用した『ニュースステーション』(テレビ朝日、一九八五〜二〇〇四年放送)が、民放テレビのニュース番組の主流を、アナウンサーが毎日の出来事を淡々と読み上げる形から、ニュースショーのスタイルに変えた。スタジオも派手で、毎日の出来事だけでなく、桜の中継からコンサートのコーナーまであるスタイル。その後継番組が、古舘伊知郎がキャスターを務める『報道ステーション』。ニュースショーとしては一日の長があり、いまでも高い視聴率を保持している。制作スタッフが、現場に出て情報や映像を押さえてくる努力は、比較的やっている方だ。しかし、一方でこの番組は誤報や過剰演出等の疑惑が絶えない。こういうことをやってしまうから、信頼して見続けることができない。日本テレビは、報道番組をニュースショーに変えるのを、最後まで避けていた。しかし、五十二年続いた『きょうの出来事』の幕を〇六年に閉じ、ニュースショーに近い『NEWS ZERO』を登場させた。メインキャスターには旧大蔵省出身の官僚で、関西学院大学学長直属教授という肩書を持つ村尾信尚を抜擢した。サブキャスターには若手女優やアイドル等を配置した。視聴者の若返りを狙ったところがあるが、全体的にジャーナリズムの野性が感じられない。村尾は、むしろ知性に寄りかかりがちだ。上からの目線の「提言」も結構だが、取材力に立脚した破壊力を感じさせない報道番組は、気の抜けたビールのようなものだ。
同局の『真相報道! バンキシャ』は、岐阜県の出先機関に裏金問題があるという特報を流した。しかし、それが大誤報だった。ウソの情報を提供した人物に取材しながら、報道のダイナミズムより表層的な面白さに走り、ものの見事に躓いたのである。
民放各局は、報道番組やドキュメンタリーに力を入れる方向にある。ここで報道の醍醐味は何か、しっかりと押さえてかからないと逆に信頼を失い、興ざめした視聴者を増大させるだけだろう。(文中敬称略)
リベラルタイム7月号特集 つまらない「新聞」「テレビ」は見たくない!
※各媒体に掲載された記事を原文のまま掲載しています。
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