Destiny Chan Ending



 気が付くと彩音はある部屋の一室にいた。今まであった事を思い出し、ガバッと一気に起き上がる。
 周りを見渡すと、まだ他の人たちは倒れたままだった。
「あら、起きたのね」
 ガチャリとドアを開けて入ってきた三里に対して、彩音は警戒心を丸出しにしていた。
「そんなに殺気立たないでよ」
 慌てて弁解するも、彩音には聞かなかった。
「ならば……潰すだけよ。力を持たない女子高生なんか、一撃だわ」
 いつの間にか愛華は彩音の後ろへと来ていた。
 ヒュン!
 愛華の手刀が彩音の首に入ろうとする。しかし彩音はギリギリのところで体を捻ってその攻撃を受けずに済んだ。
 自分の攻撃が避けられた事に愛華はニヤリとほくそ笑む。
「なるほど……今まで戦ってこれたのは、守護者の力だけではないってわけね」
 彩音は皆を巻き込まない為に、部屋の外へと出る。愛華もそれを追って外へと出た。
 そして二人は何もない、施設の中庭へと来ていた。
(ここはあの施設の中だったのか……)
 彩音たちが居たのは、前に三里に説明を受けた施設だった。皆から離れようとして、いつの間にかその施設の中庭へと来ていたのだった。
「武器を作り出せるのは、貴女だけではないのよ」
 そう言うと愛華はどこから取り出したのか、左手にハンマーを持っていた。
「もしや……イルマリネンのハンマー!?」
 以前彩音は、フィンランドの民族叙事詩を読んだことがあった。その中の『カレワラ』に登場する腕のいい鍛冶師の名前がイルマリネンだ。その名工の持つハンマーを何故か愛華はその手に持っていた。
「貴女が能力を使えたのは、あの異次元空間だから。この世界の摂理では作用しないわよ。そして、仮に使えたとしてもこの場所には何も落ちていない」
 見事に彩音の能力を分析しきっていた。その的確さに彩音はチッと舌打ちをする。
「さぁどうする?おとなしくしてたら、私も危害は加えないわ」
 既に勝ち誇ったかのように愛華は笑っていた。
 その様子を施設の屋上から見下ろしている一つの影があった。
 フードを被っていて全身は見えないが、時折吹く風に顔が何度か見える。
 それは金髪の少女だった。その長い髪をツインテールにしていた。
(さて……これをどうやって乗り切るかな……彩音ちゃん……)
 影はクスクスと笑う。この状況を楽しんでいるような様子だった。
 しかしその影は何もせず、静かに見下ろしているだけだった。
(どうする……)
 考えている間にもジリジリと愛華は近づいてくる。
(仮に能力が使えなかった場合、それは即ち敗北を意味する)
 ジリッと彩音は後ずさる。
(仮に能力が使えたとしても、この場には変換できる道具がない……)
 愛華が持っていたハンマーで殴ろうとした時、変化が起こった。
「なっ!?」
「えっ!?」
 二人は足もとに現れた魔法陣に驚いてお互いに距離をとる。
 魔法陣は輝き続ける。しかしすぐにその光は収まり、何事もなかったかのように元の静けさが辺りを包みこむ。
「なんだ……ハッタリじゃないか!」
 そう愛華が言った時には何故か彩音はひと振りの刀を握り締めていた。
「貴女、どこから!?光から出てきたわけじゃないでしょ……」
 チッと小さく舌打ちをして愛華は言う。
「そう。光は関係ないんだ」
 そう言うと彩音は刀から滴り落ちている水を振り払った。
「もしや……村雨丸!?」
 愛華は驚きを隠せない。それもそのはず、彩音が持っていたのは『南総里見八犬伝』でおなじみの源氏の宝刀、村雨丸だったのだから。
「何故現実には存在しない武器を具現化出来た!」
 声を荒げる。
「さぁ。私にも分からないや」
 首をかしげながら彩音は言う。そして持っている村雨丸を構えた。
「おとなしくしなかったら、どうするつもりだい?」
 クッと小さな声を漏らして愛華はハンマーをひと振りした。するとそこには炎に包まれた一本の槍が現れる。
 愛華はハンマーを腰にしまい、その槍をギュッと握りしめた。
「さぁ、始めようじゃないか!」
 そう言って愛華は一気に間合いを詰めてくる。
 彩音は放たれた一撃を村雨丸で受け流すのが精いっぱいだった。
「私の方が実力は上だね」
 愛華は槍の矛先から炎の龍を出現させる。
「飲み込みなさい!火尖龍!」
 言葉が放たれれると龍は彩音に襲いかかる。かろうじて彩音はその攻撃を避けるものの、周りを炎で囲まれてしまう。
「さぁ、苦しめ!わめけ!」
 その時の愛華の性格が何故か一気に変わり果てている事に彩音は気づいた。
(何か原因があるのか……)
 燃える業火の中、彩音は冷静になって考える。目を閉じて気配を探る。
「そのまま焼かれてしまえ!」
 キュピィンと目を見開いた彩音は村雨丸から大量の水を放出させた。するとどうだろうか、その水は犬の姿となって周りを囲んでいた炎へと襲いかかる。
 炎は再び龍の姿に戻り、水犬と戦う。
「貴女のその変化の原因がわかりました」
 そう言うと彩音はいつの間にか村雨丸を血の滴り落ちる一本の槍へと変化させていた。
「悪しき者よ、消え去りなさい」
 彩音は持っていた槍を投げつける。その槍は見事に愛華の体を撃ち貫いた。
 その一撃を受けた愛華はその場にうずくまる。すると愛華の懐から一つの小さな箱がポロリと落ちてきた。
 バタリと愛華はその場に倒れる。突き刺さった槍はボロボロと崩れ去り、そこには小さなキーホルダーが残った。
 落ちてきた箱を拾おうと近寄る。すると、先ほどまで傍観していた影が彩音の前に立ちふさがった。
「御苦労さま。彩音ちゃん」
 そう言うと影はその箱を拾った。
「それをどうするつもり!?」
 強い口調で彩音は言い放った。
「こうするのよ」
 影の手のひらから黒い光が現れ、すぐに箱はその光に消えて行った。
「なっ!?何今の……!?」
 彩音が驚いている中、ツカツカと影は近寄って来た。
「驚く事はありません。これが私の能力ですから」
 そう言って影はフードを取る。
「女の子……!?」
 その姿を見た彩音は更なる驚きを見せた。
「貴女を、迎えに来ました」
 少女はそう言う。しかし彩音はなんの事かサッパリ理解出来なかった。
「貴女はいずれ、私の伴侶となる者です」
 そう言うと少女は黒い輝きを放ちながらその場から消え去った。
「……一体、なんだったの……?」
 彩音は空を見上げて、考えに浸っていたのだった。
 ホムンクルスの一件を終えて、一同はバラバラになる。記憶こそ消されなかったものの、彩音はその能力からメグミやアリスの仲間になる事となる。
 それが恵や凪を組織から救う方法でもあった。
 そして高校を卒業後、彩音はメグミたちと共にどこかへと去って行った。
 卒業後も恵と凪の二人は度々会っている。
「彩音ちゃん、今頃何いてるかな?」
「あの子の事だから、きっと元気にしてるって。便りがないのは良いことだよ?」
 カフェでお茶を楽しんでいる二人は楽しそうに談笑している。
 その時、窓の外を見なれた影が通り過ぎて行った。
「!?」
 恵が口を大きく開けて呆然としている。
「どうしたの?」
 カパカパと口を開閉しながら恵は答える。
「委員長が、今通った」
 その言葉に凪は立ち上がろうとするが、それを恵は制止した。
「どうして?」
「あの子は……今戦おうとしている。だからそれを邪魔しちゃいけない」
 凪は頷くと再び席に座る。カランと氷の解ける音がした。
「遅くなった!」
 彩音が現場にたどり着くと、メグミとアリスが既に敵と対峙していた。
「彩音、戦えるか?」
 デザートイーグルを構えてメグミは聞く。しっかりと彩音は頷く。
「さぁ、始めましょうか」
 目の前にはツインテールの金髪少女が立っていた。その後ろには黒い人型をした影が大量にいる。
「我が愛しき、彩音ちゃん。私のものになってちょうだい」
 そう金髪少女が言った。不気味に笑うその笑みは少し恐ろしいものがそこにあった。
 彩音の戦いは、これからも続く。しかしそれは、また別のお話。

Fin.




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