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きょうの社説 2009年6月5日
◎核燃料の再利用 北陸でもハードルは高い
使用済み核燃料の再利用(プルサーマル)計画について、電気事業連合会(東京)が電
力各社に計画見直しの検討を要請した。東京電力のデータ改ざんや北陸電力の臨界事故隠しなど相次ぐ不祥事が原因で、地元の信頼が大きく揺らぎ、目標達成が難しくなった。「核燃料サイクル」政策の前提となるプルサーマル計画の遅れは、国全体の原子力政策に大きな影響を及ぼす。北電は、自分たちがその足を引っ張っている現実を重く受け止めてほしい。北電は志賀原発でプルサーマル計画の導入を目指している。同社の永原功社長は先の会 見で、「(プルサーマル計画の)10年度導入の旗は掲げていく」と述べたが、志賀原発1号機がようやく再稼働したばかりだけに、同時に地元への申し入れを急ぐ考えはないとも強調していた。現実問題として考えれば、よほど大きな状況の変化がない限り、10年度導入のハードルは高いと言わざるを得ない。 北電は2006年当時、志賀町にプルサーマル計画の地元申し入れを行う予定だった。 ところが、同年3月、金沢地裁で志賀原発2号機の運転差し止め判決が出たことで目算が狂い、志賀原発2号機のタービン損傷、さらには同1号機の臨界事故隠しという衝撃的な不祥事が発覚し、完全に提出のタイミングを失ってしまった。 国内を見渡すと、九州、四国、中部の3電力会社は来年にかけて3原発の計3基でプル サーマルを開始する予定で、既に共同でフランスからプルトニウム・ウラン混合酸化物(MOX)燃料を海上輸送済みである。しかし、北電をはじめ東京、東北などは具体的な開始時期の見通しすら立っておらず、2010年度までに全国16〜18基の原発で実施するとの目標は、事実上不可能になった。 なかでも北電は、永原社長も認める通り、プルサーマル計画への取り組みが9電力のな かで一番遅れている。この遅れを取り戻すのは容易ではないだろう。地元の了解を取り付ける前提となるのは、一にも二にも安全の実績である。常に緊張感を持って、志賀原発1、2号機の事故やトラブル防止に目を光らせてもらいたい。
◎足利事件再審へ 科学捜査に絶対ありえず
栃木県足利市で1990年に女児が殺害された「足利事件」で、東京高検が服役中の菅
家利和さんを釈放して刑の執行を停止したのは、再審開始決定前とはいえ、妥当な判断である。再鑑定によるDNA型の不一致で有罪の根拠が崩れた以上、無罪の公算が大きく、早急に名誉回復を図る必要がある。足利事件は、科学捜査にも「絶対」はありえないという重い教訓を警察、さらには司法全体に突きつけた。当時の捜査から公判に至るまでの徹底した検証が不可欠である。DNA鑑定の識別確率は「4兆7千億人に1人」と精度が飛躍的に向上したが、導入さ れたばかりの当時は「千人に1人程度」に過ぎず、測定器具にも問題があった。その時期の鑑定の信用性が大きく揺らいだからには、他の判決にも影響を与える可能性がある。 今回のケースは現代のDNA鑑定が、犯人検挙だけでなく、無罪の決め手になりえるこ とを示した。足利事件のように初期のDNA鑑定が決定的な証拠となった事件は少ないものの、冤罪をなくすためにも再鑑定の道が確保される仕組みは今後の検討課題である。 足利事件は2000年に最高裁で菅家さんの無期懲役が確定し、事件は4年前に時効が 成立している。弁護側が判決確定後に再鑑定を求めながら、それが遅れたことで真犯人を追及する機会が失われたことは極めて残念である。 有罪の根拠とされたDNA鑑定が否定されたことで、もう一つの有力証拠であった自白 の信用性があらためて問われることになった。菅家さんは捜査段階や一審の公判で犯行を認めたが、それはDNA鑑定の一致を告げられての供述である。警察、検察で一部実施が始まった取り調べの可視化(録音・録画)の拡大を求める声が強まるのは必至である。捜査当局は自ら問題点を明らかにし、捜査手法の改善に生かす必要がある。 DNA鑑定に限らず、科学捜査は鑑識や証拠収集などの現場に広がっている。犯人特定 の手がかりとして重視されているが、それらに過度に依存せず、物証を幅広く集める地道な努力が大事である。
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