2009年6月5日
不況が、外国人の子どもを直撃している。岐阜県内で約3500人の外国人労働者が失業したとみられ、学費が払えず、その子どもたちが学校を辞めざるを得ないケースが増えている。自治体も授業料の補助などを始めたが、住む場所によって支援が受けられないという事態も起きている。
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「このままではいけない。学校に通わせたい」。今月中旬。美濃加茂市の支援団体を、日系ブラジル人の一家が訪れた。両親は、長男(12)と次男(10)を公立小学校に転入させたいと、相談した。
兄弟はほとんど日本語が話せない。ブラジル人学校に通っていたが、両親が失業して学費が払えなくなり、5カ月前から自宅で過ごす。
母親のマリコさん(44)は「家にいるとゲームで遊んでばかり」。そして、悲しそうに、「私もあまり外に出したくないという気持ちがあった」と打ち明けた。2カ月分の給食費などの支援を受け、転入手続きを済ませた。
県によると、日本の義務教育の年齢にあたる子どもが通うブラジル人学校は、県内に7校。昨年度は多い時で1千人以上が通っていたが、先月末までに580人ほどに減った。帰国したり、マリコさん一家のように公立校に転入する場合もあるが、経済事情で外国人学校をやめ、どこにも通えなくなる子どももいる。
大半の外国人学校は授業料が月に数万円かかり、その負担に耐えられなかったとみられている。県の1月末の推計では、外国人学校をやめてからどこにも通っていない生徒は、200人以上だった。
こうした問題を解消しようと、全国に先駆けて県などが1月から支援に乗り出した。外国人学校に通う生徒の授業料を市町村が補助する際、県が3分の2を負担する。現在は、大垣、可児、美濃加茂、各務原、関の5市と坂祝町が補助している。いずれもブラジル人が多い地域だ。
課題は、支援を受ける条件が市町によって違うことだ。例えば、美濃加茂市は両親のどちらかが失業した際に、補助を受けられるのに、隣の可児市は両親とも失業しなければ対象にならない。補助の上限額も月1万〜2万円と差がある。美濃加茂市の「イザキニュートンカレッジ」は、通う子どもが補助制度を受けられる学校の一つ。昨秋から1月までに約100人が退学したが、約20人が復学できた。
だが、すべての子どもが補助を受けられるわけではない。愛知県から通う35人ほどの生徒は対象外だ。同県小牧市のカリーナ・マユミ・カシーマさん(8)は、失業した保護者が授業料を払えず4カ月間休学した。復職後にまた通えるようになり「戻れてうれしい」と話すが、ブランクで進級は遅れた。同校は3月、小牧市に対しても、支援を求める文書や、退学者の名簿を送った。
外国人の子どもを支えようと、弁護士も、1月に「在日ブラジル人等の不就学児をなくす若手弁護士の会」を設立した。東京、神奈川、名古屋の弁護士が呼びかけ約50人が参加。関東、関西、東海の3ブロックに分かれ、外国人教育の勉強会や、保護者の就労の相談会などを開いている。
呼びかけ人の一人、ハイ明玉弁護士(28)は、「子どもの将来が、偶然によって左右されかねない」と心配する。在日コリアン3世で、朝鮮大学校を卒業して弁護士になった。「憲法の精神からみて、日本に住むすべての人に『教育を受ける権利』が保障されるべきだ。教育基本法に外国人の子どもの教育の権利を盛り込み、国が外国人学校を助成する仕組みを整える必要がある」と訴えている。(高木文子)
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