新型インフルエンザが世界的に広がりつつあります。ニュースになったのはゴールデンウィークの少し前、4月下旬でした。現状、WHOはフェーズ5の警戒をとっています。世界的大流行を意味するパンデミックの一歩手前です。
今回のインフルエンザの発症の地、メキシコではインフルエンザの流行がおさまりつつあることが述べられたり、世間的には弱毒性で大騒ぎしすぎたのではとの意見もでていますが、結論は急がないほうがよいと考えています。なぜなら、インフルエンザウイルスがいつその毒性を変えるか、今のところ予測がつかないのですから。おそらく、今回の広がりは一時的なピークをもったものになると思いますが、次のピークは本年末にやってくるかもしれません。しかも、その毒性を強化して。
では我々に何ができるでしょうか。それを考えることが大切と思います。WHOや政府機関も動いています。そこから発信される情報を正確に受け止め、我々一般人ができる対策を考えてみたいと思います。
マスクで感染のもとになるインフルエンザウイルスを吸い込まないようにする、周囲に散乱させないようにするのは当然の予防策です。帰宅時の手洗い、うがいも大切でしょう。最近の研究にはインフルエンザウイルスが舌の上に存在するコケ(舌苔)に付着して、それが感染経路になっている、従って舌クリーナーを用いて舌苔を取り除くことが、インフルエンザの感染予防になることも報告されています。
それでは医薬品の開発は如何なる状態でしょうか。タミフル、リレンザ、最近よく耳にしますね。簡単に述べるとこれらの医薬品はインフルエンザウイルス表面に存在する手(接着因子)を無効にすることで、生体内でウイルスが増殖することを阻止して有効性を発揮します。ウイルスの型により、手の形が違うものですから、有効性を発揮できないこともあります。今のところ、今回の新型インフルエンザウイルス(A型インフルエンザウイルス、H1N1)には有効であると聞いています。
ワクチンはどうでしょうか。こちらは製造してヒトに投与できるワクチンとなるために時間がかかりそうです。基本的にはニワトリの卵(鶏卵)に接種して、ワクチンの種(製造株)を増やし、精製の上、ヒトに投与できるワクチンが製造されます。理論的にはこれだけですが、実際の製造工程は予想する以上に複雑で均一な品質のワクチンを製造するには一定のノウハウ、製造工程管理が適切にできなければなりません。その上で適切な品質のワクチンが供給されるのです。製造されたワクチンをヒトに投与できるまでには、国の審査を受けて承認されなければなりません。膨大なデータを確認して審査が進行するのですから、時間を要するのは当然です。審査資料の出来不出来にも影響されます。「そんな審査なんかいらないではないか」と申す方がおられるかもしれません。確かに世の中に実際に使用できるワクチンを提供するためには審査が律速(足かせ)になっています。しかし、これをいい加減にすると、極端な話、薬害が生じる可能性があります。一定の品質で、基準になるものが何万と製造されるのですから、得られたワクチンが適切であるかは保証しなければならないことなのです。従って、インフルエンザが流行したからといって使用できるワクチンが直ぐに出てくるわけありません。また、日本にはそうした一定品質のワクチンを製造することのできるメーカーが非常に少ないのも事実です。
ワクチンの品質と製造に関しては、自分の経験からも非常に興味のあるところなので、またの機会に述べるとして、本題の我々にできる対策編、解熱に関して述べたいと思います。インフルエンザに感染すると高熱に襲われることは感染したことのある人も、ない人も知っているでしょう。今回の新型インフルエンザでは盛んに「発熱外来」との言葉もニースで流れているのも事実です。
発熱したら解熱薬を服用したり、医師による投与がなされるでしょう。ここで注意が必要です。インフルエンザの発熱には「アセトアミノフェン」を主薬(有効成分)とする解熱薬(薬局、薬店で手に入る有名な薬としては「タイレノール」をあげておきます)であればまず問題なく、これを服用するのが一番安全ということです。アセトアミノフェンの含量(服用量)によっては小児に投与できませんが、許容される含量(服用量)内であれば小児の解熱にも安全に使用することができるといってよいと思います。
一方、アスピリン、イブプロフェン、ジクロフェナク等の非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)が「ライ症候群」の発症の危険因子であり、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)がライ症候群、あるいはインフルエンザ脳炎・脳症の発症とその後の重症化に関係していると考えられています。聞きなれない症候群かもしれませんが、致死に至るもので、不適切な使用によっては恐ろしい薬害が生じる可能性があると認識しておくべきです。
よく勘違いされがちですが、アセトアミノフェンは非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)ではありません。アセトアミノフェンは歴史のある薬ですが、その作用機序/メカニズム(なぜ効くのか)に未だに議論の残る薬物です。しかし、安全性は十分に確立されていると考えてよく、特に日本での1回投与量 500 mg 以下(1日投与量 1500 mg 以下)では、まず副作用はありえない、安全な薬と考えてよいと思います。
我々ができる新型インフルエンザ対策の一環として、解熱薬「アセトアミノフェン」の準備は是非とも進めるべきと考えます。