大阪府茨木市教育委員会

「在日外国人教育基本方針一主として韓国・朝鮮人児童・生徒の教育」198941

 

日本国憲法における人権尊重の理念は、人類共通の理念であり、教育を受ける権利もまた人類の普遍的原理である。

1948(昭和23)国連において採択された世界人権宣言は、国際社会の平和維持と並んで、人権と基本的自由の普遍的尊重の達成を掲げており、「すべて人問は、生まれながら自由で尊厳と権利とについて平等である。人間は、理性と良心を授けられており、同胞の精神をもって互いに行動しなければならない。」(1)、「何人も、人種、皮膚の色、性、言語、宗教、政治上、もしくは他の意見、国民的もしくは社会的出身、財産、門地または他の地位というような、いかなる種。類の差別を受けることなしに、この宣言に掲げられているすべての権利と自由を享有する権利を有する。」(2)と、基本的人権を基調とした一切の差別撤廃が宣言されている。

また、1979(昭和54)に我が国が批准した「国際人権規約」では、人権保障、人権尊重の理念に基づき、教育についてすべての者の権利を認め、教育が諸国民及び諾民族間の理解と友好を促進する役割を果たすものであることを強調しているところであり、基本的人権を尊重し、一切の差別撤廃を求める国際的な流れが前進してきているといえる。

本市においては従来から人権尊重の理念をかかげ、同和教育を積極的に推進し、差別をしない、差別を許さない実践力を身につけた児童・生徒の育成をはかり、在日外国人や障害児の問題等についても国際人権規約に示されている人権保障の国際的な趨勢に対する理解を深めるため、各学校において、実態に即した創造的な研究・実践が推進されているところである。

しかしながら、わが国の社会に民族的偏見や差別意識が今なお根強く残っている現実を直視する時、学校教育における一層の取り組みの深化・充実が必要であると痛感するものである。

本市に居住する外国人の児童・生徒は、現在(昭和63年度)6か国に及び、その総数194人のうち、韓国籍、朝鮮籍の児童・生徒は88%であり、そのほとんどが3世、4世である。

今日、在日する韓国・朝鮮人の多くは、1910(明治43)の「韓国併合条約」を境にして祖国を離れ、日本に移り住むことを余儀なくされた人々であり、1945(昭和20)日本の敗戦によって長い独立の戦いに終止符がうたれ、祖国は独立国としての地位を得るに至ったのである。この時、大部分の人々は帰国したが、祖国での生活基盤を奪われたことなど様々な理由で、日本国内に残らざるを得なかった韓国・朝鮮人の多くの人々が在日している事実は、日本の「植民地政策」「同化政策」等のもとにおしすすめられた国家政策の結果である。これら長い歴史のなかで植民地政策等が生んだ民族に対する蔑視感やさまざまな民族的差別による偏見と差別意識を払拭するため、それらの歴史的事実を社会的、政治的なかかわりの中で科学的に正しく認識することが大切であり、誤った歴史観と民族観を是正するための教育実践が必要であり、重要である。

以上の観点から、在日外国人教育を推進するにあたっては、在日外国人のうち、そのほとんどが韓国・朝鮮人の児童・生徒であり、大部分の児童・生徒が日本の公教育を受けている事実を正しく受けとめ、韓国・朝鮮人の児童・生徒の社会的立場と現実の生活の実態を的確に把握し、親や子どもの願いを正しく受けとめることにより、学校の教育活動の現状と課題を明確にした

とりくみが求められている。すべての児童・生徒に在日韓国・朝鮮人に関する正しい理解と認識を培うとともに韓国・朝鮮人児童・生徒が民族的自覚や誇りをもち主体的に生きる力を身につけさせる教育の営みを通して本名を呼び、名のることができるような教育実践に努めなければならない。

そのためには、人権尊重を基盤とした教育が推進されている状況を各校で厳しく点検し、平和、人権並びに反差別の教育を重点にしたとりくみによって、児童・生徒を真に民主的で国際的感覚豊かな連帯感あふれる人間に育成するよう努めることが大切である。平和と基本的人権を尊重し、「心の中に反差別のとりで」を築くという営みは、教育・文化などの分野における地道な努力によって進めなければならないと思考するものである。

以上の認識に立って、次の諸事項を在日外国人教育の基本方針とする。

1. 在日外国人教育は、人類普遍の原理である基本的人権尊重の精神に徹し、民族的偏見や差別をなくす教育である。

従って、学校教育をとおして韓国・朝鮮と日本の歴史等について正しい科学的認識を養い、現実認識を深めることにより、民族的偏見や差別意識の解消に努める。

2. 在日外国人及ぴ日本の児童・生徒がそれぞれの国の固有の文化・歴史等の正しい認識のもとに相互の立場を理解し、平和と人権を大切にし、差別を許さない立場に立ちきる児童・生徒の育成に努め、民主的な国際感覚と連帯感を養うように努める。

3. 一学校教育活動のあらゆる場をとおして正しい民族理解の教育が実践されるよう指導の徹底を期し、児童・生徒がお互いの人権を尊重し合い連帯して生きる集団づくりに努める。

4. 在日外国人のおかれている歴史的、政治的背景や生活の現実を正しく理解し、小・中学校教育の一貫性を大切にしながら発達段階に応じた教育計画の改善を図り、計画的、組織的な推進に努める。

5. 在日外国人児童・生徒が主体的に進路を選択し、自己実現を図ることができるよう関係機関との連携を密にしながら適切な指導に努める。

6. 教職員がその重要性を深く理解し、自ら研鐙に努め、指導力の向上が図れるよう努める。

以上の基本方針に基づいてすべての教職員が人権尊重の精神に徹し、在日外国人教育を推進することは、国際平和に寄与することであり、これの実現に向けて学校現場と教育委員会は密接な連携を保ち、教職員の研修の深化にも配慮するものとする。

 

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