今から7年前栃木県シルバー大学在学中、部外講師の講演で栃木県の偉人とし
て、「慈覚大師円仁」「勝道上人」「下野古麻呂」の3名について紹介され、その
時世界に誇れる人物であるとして理解しました。
前回は、「慈覚大師円仁」を読み投稿しました。
今回は、宇都宮市立図書館に所蔵してある、福田三男著「下野古麻呂と藤原不比
等」を借りて読みました。
その著書よると、下野古麻呂とは、大化の改新（６４５年）のころ下野一の豪族
の元に誕生した。
中央政権の中で、地方豪族としては最高位の地位に君臨した。
国の最高決定機関の「朝政の議」に参議として名を連ねる。
本薬師寺建立（６８０年）と同時期に始まった下野薬師寺建設は、下野古麻呂の
手腕が大きかったはず。
下野古麻呂は藤原不比等と共に、大宝律令の編纂を担当した。
「続日本紀」に「東国の６腹朝臣」つまり、東日本の６大豪族の一つとして下野氏
がいた。
栃木県の歴史を知る上で、重要な人物だったのである。
下野古麻呂の後も、中央政界に生き続け、薬師寺誘致だけでなく下野の国の発展に
大きく貢献したものと考えられる。
栃木県でのこの時代の遺跡発見は、下野氏の存在抜きには考えられないだろう。
有力政治家が中央で活躍するということは、地元の発展に大きく貢献することが歴
史的に現れている例だと思う。
※著書の中で特に興味をもって読んだ内容は、次の通りです。
●下野朝臣古麻呂が和銅2年(709)他界した時の冠位と役職は
・・・・「式部卿大将軍、参議、正四位下」・・・である。
式部卿は主に文官の人事などを担当した式部省の長官。大将軍は最大三万人の兵
士を統率する指揮官である。
そして「参議」。当時、国の最高決定機関である「朝政の議」に参加できたのは
大臣、納言、参議のみであった。
つまり古麻呂は下野朝臣という姓からも分かるように、下野国を本拠地とした地
方豪族の出身である。
●「日本書記」に古麻呂の名前が初めて登場するのは朱鳥4年(689)10月のことで
ある。この時古麻呂は奴婢600人を解放することを朝廷に願い出て、許されて
る。
●次に姿を現したのは11年後の文武4年(700)に「大宝律令」を選定した時であ
る。
●和銅2年(709)12月、古麻呂は波乱の人生を閉じた。時に式部卿大将軍。令義解
付録の官符には博士とあり、古麻呂が学識に優れていたことを裏付けている。
この時、不比等は59歳になっていた。
●古麻呂は、他の「壬申の成臣」にならって下野国に寺院の建設を計画して い
た。そこえたまたま持統天皇の重病のニュースが飛び込んできたのである。
古麻呂は急きょ、計画中の(建築中)の氏寺を同天皇の病気回復祈願の寺院とす
ることにした。名前も天武天皇が建立する寺と同じ「薬師寺」として。あるい
は下野一族の氏寺ではなく、「下野薬師寺」は最初から官寺として建立された
可能性も残している。8世紀の「下野薬師寺」は平城京内にあった「七大寺」
と比肩されるほどの壮麗な大伽藍を持った大寺である。後には戒壇院も設置さ
れ、東国仏教の中心をなす寺院であった。
●その後の下野薬師寺・・・11世紀の末ごろには陰りが見えはじめる。そのこ
ろ「堂塔伽藍は既に倒壊して見る影もなく、まるで荒野のような有様でイノシ
シや鹿の住み家となっている。祈りの声も久しく聞くこともなく、仏像は壊れ
て塵土となっている。」とその惨状を訴えている手紙がある。
●延元4年(1339)「下野薬師寺」は足利尊氏によって「安国寺」と名称を変え
ることになる。
●江戸期の下野薬師寺・・・江戸時代の旅行ガイドブックともいうべき「木曾
名所図絵」は、当時のの様子を「石橋より巽(=南東)の方へ半里ばかり行っ
たところに薬師寺という小さな寺がある。昔は戒壇院のある大寺であった
が、今はまったく小さな寺にすぎない」と記述している。
●律令国家の衰退に伴い、下野一族もまた衰退の一途を辿ることになる。
徐々にではあるが、国家にも下野一族にも、「下野薬師寺」を顧みるゆとり
などなくなつていく、強力な後ろ盾を失って寺運は急速に傾いていく。
「下野薬師寺」は律令国家や下野一族と運命をともにしたのである。
