セ・リーグの2位ヤクルト、1位巨人との正念場の4連戦に備え、仙台から東京に戻ってきた野村監督が、さっそく“奇策”に出た。フランク・ミュラーの超高級腕時計を、都内の時計店を訪れて返品したのだ。
「これが届いてから負けが込んでいるからね。新しいものと取り換えるんだ」
腕時計は今月29日に迎える74歳の誕生日プレゼントとして、沙知代夫人から前渡しされたものだった。値段は明かさなかったが、盤面にルビーやダイヤがちりばめられた特注品で、ノムさん自慢のコレクションの中でも「高い方」とか。時計通によれば「500万円ではきかない。1000万円近いのでは」というシロモノを、あっさりと手放した。
理由はただ一つ。成績が下降線をたどるチームのためだ。この時計が都内の自宅に届いた直後の5月22、23日の巨人戦に連敗。24日の横浜戦こそ白星を挙げたが、初めて左手に時計をはめた25日の横浜戦では、抑えの青山が悪夢のサヨナラ負けを喫した。
頼みの岩隈、田中の両エースでも星を落とす苦しい戦いが続き、巨人戦からだと3勝7敗。普段から縁起を担ぐ野村監督は、沙知代夫人の意向もあって交換を決めた。
5日からヤクルト(神宮)、巨人(東京ドーム)との各2連戦。因縁の両チームとの対戦に、ノムさんは「1勝3敗なら御の字だろうな。いま貯金2か。使い果たして仙台に戻ってくるよ」と弱気だ。
「時計もかわいそうだな。チームは実力で負けているだけで、(時計には)何の罪もない。でも、これだけ負けが込んじゃうとね」
ごめんね、フランク・ミュラー。さらば、フランク・ミュラー。新品が完成するまでは、こちらも高級品のジェイコブで代用するつもりだ。究極のゲン直しは、交流戦の後半戦で巻き返しを誓う意欲の表れ。チームのねじを巻き直し、勝利の時を刻む。(越智健一)