リーマン・ショックで大幅に変わったストーリー

 訓覇氏によると映画『ハゲタカ』の構想は、2008年の夏ごろからスタートしていたという。去年の夏といえば、北京オリンピックが話題の中心であり、中国経済の成長が連日騒がれていた時期。しかし、オリンピックから約1カ月後の9月15日に急展開が訪れる。名門投資銀行、リーマン・ブラザーズの破綻だ。リーマン・ショックから波及した経済不況と雇用問題が映画の内容を大きく変えてしまったようだ。

 「もともとの原案だと、これから中国が伸びることを前提に、“中国ファンドが日本の自動車会社を買収してきたときにどうするか”という内容でした。もちろん、それは作品内にも残っていますが、金融危機や雇用問題などの比重を増やしています。さらに、未来を見据えて問題を提起する方向から現実に起こった問題を描き切るに方向に変えています。映画のクランクインは1月だったので、短期間で今の時代に合うものに仕上げました」(訓覇氏)。

 確かに映画では、問題提起を促す内容ではなく、突如起こった金融危機に対して、人々がどう受け止めるのかという部分が描かれている。さらに、自動車会社の株価下落や派遣の切捨てなどもあり、今の時代を反映した形になっているのだ。劇場版はドラマよりもよりリアルでシビアな面を映し出している。

(C)2009 映画「ハゲタカ」製作委員会(画像クリックで拡大)

 「ドラマをやっていたころから、将来的にこんなことが起こりかねないという問題を訴える前に、そのことが実際に起こってしまうことがありました」と語る訓覇氏。「社会の動きを扱う難しさを改めて実感した」と語る通り、今回の劇場版でも現実社会に大きく影響されたようだ。

 『ハゲタカ』は、テレビドラマ製作時は村上ファンドの敵対的TOBや大企業の買収問題など、当時の社会に即した内容で人気を獲得した。劇場版でも今の社会を色濃く反映した内容となっており注目度は高い。

 日本ではあまり多くない社会派映画が、テレビでの告知ができない中、テレビドラマ同様に受け入れられるのか。NHKのコンテンツの映画化にとって、一つの試金石になりそうだ。

(C)2009 映画「ハゲタカ」製作委員会(画像クリックで拡大)

(文/永田哲也=日経トレンディネット)