“DRMフリー”がデジタル音楽再生の可能性を広げる
ここで、高音質・音楽配信サービスの具体例を紹介しておこう。英国ではリンのソフト部門である「リンレコード」、ドイツではクラシックの名門レーベル「ドイツグラモフォン」、米国ではチェスキーレコードが手がける「HDtracks」などが相次いで高音質音楽ファイルの配信をスタートさせ、日本ではクリプトンの「HQM」が6月下旬に配信を開始するという具合に、世界各地で同様なサービスは着実に増えている。HQMはクラシックの老舗レーベル「カメラータ・トウキョウ」の音源を提供することが決まっている。
ここで紹介した4つのサイトの配信システムにはいくつかの共通点がある。特に、コーデックにロスレスのFLAC形式を使用していることと、バックアップやデータの移動が可能なDRMフリー仕様で提供されることが重要なポイントだ。
FLACは音質劣化のないロスレスコーデックのなかでは特に音質と効率(ファイルのサイズ)のバランスが優れていることから、急速に採用例が増えている。LINNのDSをはじめとしてデコードに対応する機種が多いことも利点の一つだが、対応するサンプリング周波数は機器によって上限が異なるので注意が必要だ。
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A&Vフェスタ2009に出展したクリプトンのブース(写真)で発表された、同社の高音質音楽配信サービス「HQM」。山之内氏はサービスインよりも一足早く、カメラータ・トウキョウの製作による高音質ソースを試聴しているが、そのポテンシャルをとても高く評価していると語る |
FLAC(Free Lossless Audio Codec)は可逆圧縮方式を採用し、元の音声データから音質劣化がないオープンソースのフォーマットとして注目を浴びている |
音楽ファイルがバックアップに対応することは、家庭内ネットワークを使用するストリーミングオーディオでは特に重要なポイントだ。NASと呼ばれるネットワーク接続ストレージにデータを保存する場合、ストレージに万一トラブルが発生すると音楽ファイルが失われ、再生できなくなってしまうからだ。DRMフリーであれば、パソコンの内蔵ドライブから外付けのストレージにデータを移動することができ、再生時にパソコンを起動する必要がなくなるというメリットもある。著作権対策は各サイトで方法が異なるが、前述のHQMは電子透かし方式の採用を検討している。
ユーザーが所有するストレージに音楽ファイルをダウンロードする音楽配信とは別に、リアルタイム&オンラインでストリーミング再生を行うサービスにも注目すべき動きがある。高音質音楽配信に比べると音質に制約があるものの、データベースとしての利便性や即時性など、既存の音楽配信とも異なる新しいメリットがある。人気の高いサービスを2つ紹介しておこう。
2009年1月からスタートしたベルリンフィルの「デジタル・コンサートホール」は、ベルリンのフィルハーモニーホールで行われる定期演奏会をインターネットで生中継し、コンサート終了後もアーカイブから何度でも再生できるという画期的なプログラムで、シーズン会員と1回ごとの購入の両方に対応している。映像はハイビジョン、音声はステレオで、回線速度に応じて3つのストリームが用意され、大画面テレビでコンサートさながらの臨場感が味わえるため、人気が高い。
すでにスタートから数年を経た「ナクソス・ミュージック・ライブラリ」は、クラシックを中心に多数のレーベルが参加し、デジタル化した音源を契約ユーザーが自由自在に再生できる定額制のシステムだ。新譜の内容を確認したり、資料として利用するなど、様々な用途があり、情報通のクラシックファンの間ではおなじみの存在だ。
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