視聴者目線はドラマ以外の番組にも浸透しつつある。昨年の北京オリンピック。民放はキャスターにタレントを起用し、バラエティ的な番組作りが目立った。対照的にNHKは競技の放送に軸足を置いた結果、視聴率は上昇。昨年度上半期ゴールデンタイム首位獲得に貢献した。昨年末の紅白歌合戦では、本来の歌番組らしく曲間に登場する応援団を減らし、出場歌手の人数を増やした。その効果もあり、視聴率は3年ぶりに40%を超えた。「必要なことだけを伝える作業を忠実にやった。それが視聴者の支持を得た」と福地茂雄会長は言う。
番組の評価が上がれば受信料にも跳ね返ってくる。不祥事の発覚で、ピーク時には120万件を超えた受信料の支払い拒否・保留の件数が着実に低下しているのだ。もちろん不払い世帯に対して、裁判所への支払い督促の申し立てを行うなど、受信料徴収を強化した効果が大きいのも事実。ただ、営業を統括する大西典良理事は「(不祥事で)一時は営業センターの日常業務ができないほど、口座解約や厳しい意見の電話が鳴っていた。しかし最近は、番組への高い評価の声をいただくようになり、営業改革との相乗効果が出てきている」と話す。番組の評価が支払い拒否を減らしているのは確かだ。
NHKにはこうした好循環が生まれ始めている。もっとも、NHKが公共放送である以上、視聴者の目線や満足を大事にするのは当たり前。だが、その追求を阻んでいた大きな要因の一つが、NHKの組織風土だ。
海老沢体制が縦割り組織をさらに悪くした
NHKは「報道、制作、営業など局が違えば別会社」(NHK中堅職員)というほど、一般会社以上に強固な縦割り組織だ。さらに報道局内でも政治部、経済部、社会部などは縄張り意識が強い。それに輪をかけたのが、1997年から05年まで会長を務めた海老沢勝二氏といわれる。「出世するのは(海老沢氏の出身である)政治部の記者ばかり。重要ポストは側近で固め、独裁体制を築いたことにより、親分子分主義に拍車がかかった」とNHK関係者は語る。
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