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いやしい田舎の紺屋の倅に生れて、金持ちの親類もなく、出世のひきになるような知りびともなく、一歩一歩築き上げてきた自分の努力のことが振返られる。人の寝ている間にも刻苦して勉強した。自分の青春も、また有り得たであろう恋も、家庭的な幸福も、顧りみなかった。これまでの自分にすこしでも幸福だと感じたことがあったろうか?いつも、その幸福は次の日に期待して、今日という日は満たされなくても自分の有りたけを出したということだけで満足して来た―なんのためだったろうか?人に負けたくなかったからだ。生れがいやしくても、十分に世間を征服できる地位が欲しかったからだ。自分で考えてもいじらしくなるくらい、これには努めてきた。 頼宣は、東照宮の子に生れてその地位を生れながらに持っていた。なんの努力もなしに今日の地位に坐っていて、これとは逆に、血が流れるまでに刻苦して来た正雪の期待を、軽く笑って黙殺できるのだ。このひとに期待をかけたのがおれの間違いだったのか?身分というものは、いくら洗っても、いやしいものは、いつまでもいやしいとされるのか? それならば、なんのために人は生きているのか?身分に恵まれ地位に幸運な者の豪奢な生活の下肥となって、自分らは一生みじめでいなければならぬのか?おれに駿河に帰ってもう一度藍甕に手をつけて暮せ、それで満足して死ねというのか?―野心を持つものは不幸だ。身分不相応なものを望むからお前は不仕合せなのだ。 そんなことはおれも知っている! (「由比正雪」(大佛次郎 昭和4年)より) |
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