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毎日・北九州フォーラム:第6回講演会 岸井成格・毎日特別編集委員 /福岡

 ◇政権交代で政界再編--大崩壊、次は大転換

  第6回毎日・北九州フォーラム(北九州地域懇話会、毎日新聞社主催)が5月27日、北九州市小倉北区のリーガロイヤルホテル小倉であった。毎日新聞の岸井成格特別編集委員が約700人を前に「混迷政治から読み解く世界と日本」と題して講演した。要旨を紹介する。

 ◆解散に「70の法則」

 やっかいな政局になっています。

 3カ月前、民主党の小沢一郎前代表の秘書が(西松建設事件で)逮捕された。秘書は「政治資金規正法にのっとり処理している。どこが悪いんですか」と主張している。しかし政権交代を目指し総選挙をやる以上「小沢さんは退くべきだ」との世論が強まった。

 小沢さんがやましいことはないと言っても秘書が起訴され、裁判が始まる。毎日のように検察が追及する。それでは総理大臣は務まらない。政治判断は難しいが、身軽になって裁判を戦うなら戦う、一方で政権交代は政権交代、と(別の次元で)考えるようにしたんだと思います。この問題が総選挙に入り、どう展開するか、注目すべきです。

 麻生(太郎)首相はジワジワと支持率を回復してきた。そこへ大型の経済追加対策、補正予算をぶち上げ、好感されている。

 解散総選挙に踏み切る時「70の法則」というのがある。内閣支持率と自民党支持率を足し70になるか、という話です。しかも、それは最低限の数字。麻生政権は依然として70に達していません。

 もう一つ考えておかなくてはいけないのは「政治の劣化」と言われる問題です。

 国際社会からみると次の総選挙で総理大臣の座を争うのは麻生さんと民主党代表の鳩山(由紀夫)さんです。今の自民党は55年に自由党と日本民主党が合併してできた。トップは自由党が吉田茂、日本民主党が鳩山一郎。そのお孫さん同士が争っているんですよ。今の閣僚の多くも2世議員。外国から見ると「いつから日本は貴族社会になったの?」ということになる。

 職業選択の自由があるから、2世はダメという法律はできない。しかし、いろいろな国がそれなりに工夫して、政党で自粛的な(制限)措置をとっている。日本は形は議会制民主主義でも、貴族制度を引きずっているんじゃないの、と見られてしまう。自民党と民主党で世襲制限の話が持ち上がっているのは、お気付きだと思います。

 ◆2大政党もどき

 さらに考えてほしいのは政治改革が小選挙区制につながったという点です。

 リクルート事件などが起き、政治と金の問題が噴き上がった。リクルート事件で竹下内閣が倒れ、その後に総理になるであろう有力者が皆、この事件で総裁選に出られなくなった。政権交代が可能な2大政党制に移行するべきだという機運になり、小選挙区制を取り入れた。小選挙区制は比例代表制を組み合わせても、2大政党になる。だから各国が採用している。とにかく一日も早く、政権を担えるような党を作ろうというのがこの政治改革の発端だった。

 でも、まだ2大政党もどきですよ。民主党も幹部はほとんど元自民党や2世、3世議員でしょ。ここで政権交代が起きたら、おそらく政界再編という戦後政治の大きなページがめくられます。

 ◆世界中が混迷期

 今日の本題は「混迷政治」です。でも日本だけがそうなのかと考えると、そうじゃない。

 10年前、私は毎日新聞から「大転換」という本を出した。世界も日本も崩壊現象ばかり起きてきたわけです。東西冷戦が崩壊し、日本政治の55年体制が崩壊した。バブル経済、株や土地神話が崩壊した。もっと言えば教育現場、医療現場が崩壊し始めている。

 世界の歴史を考えると、必ず崩壊現象が大転換に先行する。日本で言えば、明治維新、あるいは幕末。そして第二次大戦の軍部支配と戦後の民主主義国家の建設。この二つに匹敵するぐらい、大きな転換期が今、日本を襲っている。でも前向きに考えれば、みんな建国じゃないですか。

 今は戦争とか黒船はないけれど、大きく価値観もシステムも変わりつつある。「どういう枠組みで国を作ったらいいんだ」という時代に入った。若い政治家には、そういう時代認識を持ってほしい。

 世界は冷戦が終わって、唯一残った超大国はアメリカだけです。20年ほど前、旧ソ連は大混乱で、中国は天安門事件があった。東欧はガタガタだった。唯一残ったアメリカがクリントン大統領の下で最初に手をつけたのがIT革命だった。軍事技術を民間へ開放するという、それまでなかった方針を決めた。

 その時に手を挙げたのがビル・ゲイツ。マイクロソフトを立ち上げ、10年足らずで世界中にインターネットをつくった。革命的なことをやろうと思えば、そういうことが起きる。

 そして今、世界を揺るがす問題は金融不安です。金融マフィアが中心になり動かす。それが行き過ぎてサブプライムローン、リーマンショックにつながった。これも冷戦崩壊後の新しい秩序づくりの失敗なんです。

 経済も科学技術も20世紀に発展した。同時に20世紀ほど人類が殺りくを繰り返した世紀はない。金をもうけること、便利になることだけがいいとは限らないと、みんなが気付き出した。

 ◆啄木の物語、現実に

 「サルと人と森」という絵本ができました。私が理事長を務めるNPO法人「森びとプロジェクト委員会」の発行です。102年前、石川啄木が母校の旧制盛岡中学の同窓会誌に書いた物語で、元の題は「林中の譚(たん)」です。

 ストーリーは林に入った人間を猿が呼び止める。「おい人間。最近のお前たちを見ていると、おごりたかぶっている。俺(おれ)たちは人間の祖先なのに、自然と俺たちをバカにしてるんじゃないか。俺たちから見ると、どんどん人間は退化してるよ」。それに対して人間が「ふざけるな。お前たちは毛が3本足りないから人間に進化できなかったんだ」と、猛烈な文明論の応酬をする。最後に猿が「人間は山を削り木を切って川を埋め、どんどん自然を悪くしている。お前たちが地獄の道で絶えるのはいい。俺たちまで道連れにするな」と言い、姿を消す。

 日本はずっと上昇気流にのって、この物語には誰も見向きもしなかった。今、人間と猿のやりとりが世界中で起きてる。詩人の感性はすごい。そういう時代感覚は、とても大事だと感じています。

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 ◇次回は8月20日 講師浜矩子・同志社大教授

 毎日・北九州フォーラムは地元企業・団体と個人による北九州地域懇話会と毎日新聞社の共催。無料講演会を年4回開催する。次回は8月20日(木)、講師は同志社大学教授の浜矩子氏。

 ◆北九州地域懇話会名簿◆

 顧問は北橋健治北九州市長、会長は重渕雅敏北九州商工会議所会頭、副会長は利島康司安川電機社長と原田康ゼンリン会長。会員(09年5月28日現在、法人70、個人5)は次の通り。

(50音順、敬称略)

【法人会員】RKB毎日放送北九州支社▽旭興業▽アステック入江▽井筒屋▽エーエスエー・システムズ▽NTTドコモ北九州支店▽大林組▽鹿島建設▽北九州エアターミナル▽北九州市医師会▽北九州市薬剤師会▽北九州市立大学▽九広北九州支社▽九州工業大学▽九州電力北九州支店▽九州旅客鉄道北部九州地域本社▽九電工北九州支店▽ケィ・ビー・エス▽小倉ターミナルビル▽コンピュータエンジニアリング▽西部ガス北九州支社▽佐賀銀行小倉支店▽サンキュードラッグ▽サンレー▽シャボン玉石けん▽スターフライヤー▽スピナ▽スポーツニッポン新聞社西部本社▽住友生命保険北九州支社▽西南女学院▽西部毎日広告社▽ゼンリン▽ソルネット▽第一交通産業▽高田工業所▽タカミヤ▽千草▽鶴丸海運▽電通九州北九州支社▽TOTO▽ドーカイ商事▽ナフコ▽西鉄バス北九州▽西日本工業学園▽西日本産業衛生会▽西日本シティ銀行北九州地区本部▽西日本電信電話北九州支店▽日鉄エレックス▽日本銀行北九州支店▽年長者の里▽BBDOJWEST北九州支店▽福岡銀行北九州本部▽福岡ひびき信用金庫▽フジコー▽フジプロダクション▽毎日新聞九州センター▽毎日新聞西部アシスト▽▽毎日新聞北福東専売会▽毎日新聞北福西専売会▽毎日ビルディング▽毎日メディアサービス▽松尾建設▽松本工業▽門司港運▽安川電機▽山口銀行北九州本部▽山本工作所▽吉川工業▽リーガロイヤルホテル小倉▽若築建設

【個人会員】飯野一義ケイ・イー・エス社長▽小嶋寿見子セルブ社長▽中村吉孝中村農園代表▽濱村美和不動産中央情報センター社長▽三隅佳子(財)アジア女性交流・研究フォーラム顧問

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 ■人物略歴

 ◇きしい・しげただ

 東京都出身。1967年、毎日新聞社入社。熊本支局を振り出しにワシントン特派員や政治部長、論説委員などを歴任。現在、21世紀臨調運営委員や早稲田大客員教授などを務める。TBSの「サンデーモーニング」や「みのもんたの朝ズバッ!」に出演中。

〔福岡都市圏版〕

毎日新聞 2009年6月4日 地方版

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