取材・文:福住佐知子 写真:高野広美
企業買収や企業の再生をテーマに、人間の生き様を深く掘り下げて描き、国内外で高い評価を受けた2007年のNHKの社会派テレビドラマ「ハゲタカ」が待望の映画化。映画『ハゲタカ』でテレビシリーズに続き天才ファンドマネージャー・鷲津政彦を演じた大森南朋とジャーナリストの三島由香を演じた栗山千明が、映画について語ってくれた。
■映画版の仕上がりに手ごたえバッチリ! Q:テレビドラマ「ハゲタカ」で主演のお話が来たときは、どんな感想を持たれたのでしょう? 大森:本当に僕でいいんですか? と。どういうつもりですか? って……(笑)。 Q:その「ハゲタカ」が映画化されることになって、手ごたえのようなものは感じられていますか? 大森:僕は素直にうれしいと思いました。不安もあったし、本当に面白いものができるんだろうか? テレビドラマのときのテンションをまた引き戻せるのだろうか? といろいろ考えましたが、大きなスクリーンで「ハゲタカ」ができるってことが楽しみでもあったんです。すべてひっくるめて、うまくいったと思いますよ。みんなの協力もあって作品もよくできていると思います。手ごたえはバッチリあります(笑)。 栗山:わたしもそうですね。でも、ドラマのときに、胃が痛くなるほど緊張して撮影していたので、今回は撮影するのが怖かったです。 Q:お二人はドラマに続いての共演ですが、久しぶりに共演されていかがでしたか? 大森:今回は同じシーンは少なかったんですが、僕が記者発表をする場面で、会場に記者として座っていましたね。その感じが非常に懐かしくて……。前にこんな場面をやったなあって。いてもらえるとホッとする、そんな安心感がありました。 栗山:わたしも同じで、本読みとかで事前にお会いしているんですが、カメラの前で一緒にお芝居して、あ、懐かしい……と思う瞬間がありました。支えていただけるとわかっているので、安心しましたね。 |
■新たなキャラクターを演じた玉山鉄二について Q:大森さんは再び天才ファンドマネージャーを演じていますが、専門用語が多いので苦労されたのではないですか? 大森:それが、そうでもないんです。僕は台本を信じていますので(笑)。現場にはアドバイザーの方がついてくださったので、お話を聞くこともできましたし。 Q:栗山さんは経済ジャーナリストの役ですが、ジャーナリストという職業にどんなイメージを持たれて役に入られたのでしょうか? 栗山:知的で、カッコイイというイメージはあります。テレビシリーズから年月が経っているので、由香は出世をして現場には行かなくてもいい立場になっているんですが、あえて自分から率先して現場に行っているという感じですね。気持ちは全然ドラマのときと変わっていないです。 Q:本作では鷲津の敵役の“赤いハゲタカ”こと劉一華(リュウ・イーファ)役で玉山鉄二さんが出演されていますが、共演された感想は? 大森:まっすぐだし、好青年。お芝居する力がすごくあって、誠実な芝居をされる方だと思いました。 栗山:わたしは(記者会見場などで)玉山さんがお芝居されるのを見ているシーンが多かったんですが、見ていて大変だなあ〜って思いました。すごく集中力のある方ですね。 |
■現場で一番テンションが高いのは監督 Q:大友啓史監督の撮影方法(長回しなど)は独特なものだったとうかがっていますが、その方法がこの映画にどんな影響を与えていると思われますか? 栗山:今回、一般公募でたくさんのエキストラの方が出てくださっているんですね。その人たちがずっとテンションを上げていられるようもっていく力が監督にはあるんです。 大森:現場では、監督が一番テンション高いからね。僕たちはそんな監督を見ていて、いつの間にか芝居に入っていたということもあります。 Q:たくさんのエキストラが出演していて、そのハイテンションさに驚かされましたが、どんな現場だったのでしよう? 大森:大勢の方が出ているシーンは熱気もあるし、撮影が長くなるので妙な虚脱感のようなものもあるんです。 栗山:会見のシーンや派遣工の集会の場面ではエキストラの方たちの勢いに押されて、ぶつかったり、足を踏まれたり……、怖かったですね(笑)。 |
■声が3年分老けている? Q:「世の中は金だ、金が悲劇を生む」などの印象的なせりふがたくさんありましたが、どんなせりふや場面が心に残っていますか? 大森:印象的なせりふはたくさんありましたね……。面白かったのは、テレビドラマと同じセリフを録り直したんだけど、完全に声が3年分老けていたんです(笑)。 栗山:え〜っ!? 声って老けますか? 大森:前に録った声を聞いたら、自分で聞いても明らかに声が若かった。今回はいい具合に大人っぽくなっていて、「よし!」って思いました(笑)。 栗山:わたしも大人っぽくなりましたか? 大森:現場で「千明ちゃん、大人っぽくなった」って、話題になっていたよ(笑)。 栗山:本当ですか? ありがとうございます! |
■将来に対して夢や希望を感じたこと Q:劉は幼いころの経験から将来の夢を持ちました。お二人はどんなものから夢や希望を感じていましたか? 大森:僕は何になるかもわからず、漠然と生きていたころがありました。それでも何か希望は持っていましたね。それが何だったのかははっきりと思い出せませんが……。早く大人になりたいという気持ちはあったかな。 栗山:わたしは何かあったかなあ……。 大森:若いころからモデルだったでしょ? 「いつか女優に!」とは思っていなかったの? 栗山:全然なかったですよ。女優なんて、絶対に無理だと思っていました。でも、あるときにきっかけをいただいて、演じ始めてドンドン面白さがわかってきたんです……。 大森:ドンドン希望が膨らんできたんだね。 栗山:そうですね(笑)。 |
■社会派ドラマとしてだけではなく、ヒューマンドラマとしても Q:硬い質問を一つ。世界的に不況の風が吹いていますが、日本再生の道はどこにあると思われますか? 栗山:ず〜っとこのままってことは絶対にないと思うので、ジタバタしてもしょうがないって思います。 大森:僕は、想像もつかないな……。日本はどうなっていくんだろう? Q:最後に、この映画をどんな風に観てほしいですか? 栗山:人間対人間、上司と部下、敵対している企業同士とか、何にでも当てはめてみることができると思うんです。それぞれが闘っているんですね。観ているとドキドキしてくるし、身近な人間関係にも通じるものがあるんです。硬い映画と思わないで、楽しんで観ていただけたら……と思います。 大森:経済の話ではあるんですが、そこに生きている人間たちのドラマがしっかりと描かれています。その点が評価されて映画化できたんだと思うし、そんなことを感じて観てもらえればいろんなことが見えてくると思います。 |
卓越した演技で注目されていた大森だが、本作でもその確かな演技力で存在感を見せつけた。素顔の大森はもの静かで、アンニュイな表情を漂わせていたが、ふとしたときに見せた笑顔が実にキュートだった。一方、華やかなドレス姿で現れた栗山は、くるくると動く大きな瞳がチャーミングで、周りをハッピーな気分にさせる女優だ。本作は骨太の社会派ドラマだが、サスペンス要素もあり、エンターテインメント性にも優れている。テレビシリーズのファンの方もそうでない方にも満足のいく仕上がりになっている。
『ハゲタカ』は6月6日より全国公開