191字の中で、採否が最も話題になったのが「俺(おれ)」。「公の場では使わないから入れなくてよい」という意見と「日常生活ではよく使うから入れるべきだ」という意見がぶつかった。採用の決め手の一つになったのがウェブサイトの調査だ。全表外漢字の中で「俺」の出現頻度は、書籍では5位だが、インターネットの世界では1位だった。
国立情報学研究所副所長の東倉洋一さんが小委員会で指摘したように、現実の社会生活とかなり異なる言葉の使われ方がネット社会にはあることを、如実に示す数字だ。
中心となった書籍調査の場合、凸版印刷が04〜06年に作った本860点分の組み版データを分析した。単行本を中心に「文芸春秋」や「週刊ポスト」などが含まれる。
もっと軟派の本もある。昨年6月の小委員会で話題になったのが官能小説。前月に公表された追加字種の第1次候補案に、「濡(ぬ)」れる、「覗(のぞ)」く、「撫(な)」でる、「淫(みだ)」らといった漢字が入っていた。それが官能小説の影響ではないか、というのだ。
日本新聞協会用語専門委員の金武伸弥さんは協会内で出た意見として、調査で使われた単行本の分野や作家にかなり偏りがあると指摘した。たしかに、540点の単行本の中に『柔肌ざかり』『インモラルマンション』といった題名の小説が26点ある。
調査を担当した文化庁国語課は「現在の文字生活の実態を考えれば、官能小説がこのくらい入っていてもいいのでは。調べた漢字の数が非常に多いので、ノイズのようなものはほとんど落ちてしまう」と影響を否定した。
司馬遼太郎の作品が約50点あるのは多すぎるという指摘もあった。国語課はやはり「特定作家の文字遣いの影響は残らない」としていた。
官能的な4字の中からは結局、「淫」が常用漢字に仲間入りする。世相を表す年末恒例の「今年の漢字」に選ばれなければよいが。(編集委員・白石明彦)