キャデラック、シボレーなど富と繁栄のシンボルといわれる高級車を造り、世界の自動車業界に君臨していた米ゼネラル・モーターズ(GM)が経営破綻(はたん)に追い込まれた。
日本の民事再生法に相当する連邦破産法11条の適用を裁判所に申請し、再建を目指すことになった。3月末時点の負債総額は1728億1千万ドル(約16兆4千億円)に上り、米製造業史上最大の破綻規模である。
4月末のクライスラーに続き、ビッグスリー(米大手3社)のうち2社が約1カ月の間に破産法を申請した。フォード・モーターを含む3社が約80年にわたり世界の自動車産業をリードした体制は幕を閉じた。時代が大きな転換期を迎えたことを痛感させられる。
GMの立て直し策を主導してきたオバマ大統領は、米政府が301億ドル(約2兆9千億円)を追加融資し、GMを事実上国有化して早期再建を全面支援する方針を表明した。
GMは米資本主義を象徴する巨大企業だった。それが事実上国有化されるとは、何とも皮肉な結果といえる。世界34カ国で生産し、従業員数は24万人余りもいる。巨大ゆえに清算されれば、雇用や経済に大打撃を与えると判断されたようだ。
オバマ大統領は、GMの破産法申請について「古いGMの終わりと新しいGMの始まり」と宣言した。公的支援に理解を求めるためだろうが、再建後の「新生GM」株を約60%取得する異例の介入に踏み切る。
世界的な不況の中、再建は前途多難といわれ、失敗すれば巨額の税金を失うことになる。オバマ大統領にとっては政権の浮沈をかけた決断といえよう。
GMが破綻した根本的な理由は、世界一の自動車メーカーという地位への安住、慢心が命取りになったとされる。1970年代の石油ショック以降も燃費効率が悪い大型車の生産に頼り続けた。
低燃費や環境対応技術への投資を怠ってきたため、最近のガソリン価格高騰などで販売が急落した。さらに金融危機による景気悪化が、とどめを刺す形になったといわれる。時代の変化に対応できなかった体質が、経営をむしばんだようだ。
今後は不採算部門の切り捨てなど選択と集中が徹底されよう。大幅な事業縮小は避けられず、世界的に部品メーカーなどへの影響が懸念される。米政府を中心に関係国には、破綻の打撃を最小限に食い止めるきめ細かい対策が望まれる。
75歳以上のドライバーに免許更新時、加齢による影響の有無を調べる講習予備検査(認知機能検査)を義務付ける改正道交法が、今月からスタートした。高齢運転者の事故防止につながるよう期待したい。
交通事故は減少傾向だが、高齢者が加害者となる事故は10年前に比べ約1・5倍に増えている。運転に必要な記憶力や判断力の低下が原因とみられるものが多く、中には認知症で運転していたケースもある。問題は本人が認識しにくいことだ。そこで、警察庁は認知機能検査によって実態を明らかにして対応を図るとともに、高齢者に自覚してもらおうと踏み切った。
対象は免許証の有効期限が今年12月1日以降で、その時点の年齢が75歳以上の人。検査内容は検査日の日時や曜日を答えるほか、16種類のイラストの記憶、指定された時刻を時計の文字盤に針で記入するなどである。
検査結果を基に(1)記憶・判断力が低い(2)少し低い(3)問題なし―で評価され、それに応じた高齢者講習が行われる。(1)と判断された場合でも更新はできるが、過去1年以内か3年後の次回更新までに信号無視など特定の交通違反をすると専門医の診断が必要となる。認知症とされた場合は免許が取り消される。
検査を受けることには不安や抵抗感を覚える人もあろう。だが、年齢を重ねれば記憶力や判断力は低下する。事故の加害者となってからでは遅い。自分の認知機能の状態を知ることは自らを守ることでもある。免許の自主返納をためらう高齢者を納得させる材料ともなろう。
高齢者がハンドルを握り続ける背景には、生活する上で車がないと不便という面もある。とりわけ公共交通機関のない過疎地はそうだ。代替手段への取り組みの重要性が増してくる。
(2009年6月3日掲載)