人を待ち構えて銃撃する計画的殺人など「謀殺」の時効は廃止したが、一般の殺人は事件の重さによって20年と30年の時効がある。
謀殺の時効は1871年以来、帝国刑法典が20年と定めていた。だが第二次大戦終了(1945年)後、ナチスの虐殺が65年に時効になることが問題になり、連邦議会は起算点を西ドイツ成立の49年に変更。その後、時効を30年に延長し、その期限となる79年に謀殺の時効を廃止した。
起算点を変更した当時、犯行時20年だった謀殺を、犯行後作った法律で処罰できるのかが論争になった。しかし連邦憲法裁判所は「時効は犯人保護が目的ではなく、犯人も『何年たったら時効』と信じて殺害するわけではない」として、延長を合憲とした。
このように、ドイツの時効は「大量虐殺は時効にしてはいけない」と人々が望んだから廃止されたのだ。
さらに最近は(1)大量虐殺(2)人道に対する罪(3)戦争犯罪--を総称した「国際法犯罪」の時効を廃止する国際的な流れがある。日本は廃止していないが、国際刑事裁判所(03年設立)の加盟国のほとんどが、この時効を廃止している。ドイツも国際刑事裁判所加盟に伴う国内法の整備で02年、国際法犯罪に時効を適用しない国際刑法典を制定した。これも、大量虐殺などを許してはならないという考え方に基づく。国際法犯罪の多くが国家権力者によるもので、犯罪を行った政権が続く限り処罰できない事情もあるからだ。
日本は少なくとも大量虐殺について時効を廃止すべきだ。しかし、謀殺の時効廃止についてはいろいろ意見があるだろう。ただ、ドイツではこの議論は終わったものだ。謀殺の時効を復活させようという議論はない。【聞き手・ベルリン小谷守彦】=つづく
2009年2月12日