きょうの社説 2009年6月3日

◎珠洲に新エネ百選 「ポスト原発」の切り札に
 新エネルギー導入の先駆的地域として、珠洲市に「新エネ百選」の選定証が贈られた。 稼働中の風力発電施設、バイオマスメタン発酵施設に加え、新たに大規模太陽光(メガソーラー)発電所の建設も決まり、地域挙げての取り組みが観光振興にも大きく貢献している点が評価された。

 急激な人口の減少と市財政の危機的状況のなかで、電力3社による珠洲原発の立地断念 から6年を経て、ほのかな希望の灯がようやく見えてきたといえるのではないか。新エネルギーへの取り組みを「ポスト原発」の振興策の切り札として根気よく育て、大きな花を咲かせたい。

 「新エネ百選」は、風力や太陽、バイオマスなど新エネルギーを利用した全国各地の優 れた取り組みを選ぶもので、「半島の自然を生かし未来へ伝える環境共生型のまちづくり」を掲げる珠洲市が県内で唯一選ばれた。

 珠洲市若山、大谷町にまたがる山間部に一昨年、出力1500キロワットの風力発電機 10基が営業運転を開始した。年間発電量は一般家庭約1万世帯分に相当し、風力エネルギーだけで、珠洲市の全世帯の必要量をすべてまかなえる計算という。能登半島は風が強く、土地の取得コストが安いなどのメリットがあり、珠洲市ではさらに20基の増設が計画されている。

 バイオマスメタン発酵施設は、下水汚泥、生ごみなど5種を混合処理し、発生するメタ ンガスを熱エネルギーとして活用する。処理残物は乾燥させ肥料として農緑地に還元している。国交省、環境省連携による国内初のプロジェクトで、同施設には、全国から見学者が訪れている。

 また、北陸電力が同市宝立町に建設する太陽光発電所は、年間発電量100万キロワッ トに達する大規模施設で、2012年の運転開始を目指している。

 泉谷満寿裕珠洲市長は、北電と協定書を交わした席で、「自然と共生する珠洲のイメー ジをブランド化させたい」と強調した。珠洲市には金大の里山里海自然学校などもある。子どもたちが新エネルギーの現状を理解し、学ぶ場としても最適だろう。

◎出先職員の退職手当 地方負担の廃止は当然
 金子一義国土交通相が、国直轄公共事業費の地方負担金に含まれる同省出先機関職員の 退職手当や共済年金に関し、見直しの意向を示した。全国知事会などの反発が最も強い部分でもあり、地方負担の廃止は当然であろう。ただ、直轄事業の地方負担金制度については小手先の修正ではなく、じっくり腰を据えての全体的な見直し作業が必要である。

 国の直轄事業で地方にも負担を求めるのは、その事業で地方も利益を受けるという理屈 からである。しかし、工事費だけでなく、出先機関職員の退職手当や年金の国負担分まで地方に請求するのは、受益者負担の原則などでは説明がつかず、地方が支払いに抵抗するのはもっともである。

 国交省の2008年度直轄公共事業費のうち、地方の負担金総額は9717億円に上る 。その内訳は、道路整備や河川改修などの工事関係費9013億円のほか▽退職手当32億円を含む国交省職員の人件費598億円▽出先機関の庁舎などの営繕費46億円▽職員の出張旅費や備品購入などの事務費60億円となっている。

 地方の要求で初めて内訳を発表したものだが、職員の人件費以外でも、地方として合点 のいかない負担金が並んでおり、政府のさらなる説明が必要であろう。

 職員の退職手当などを地方負担の対象から外すことは、法律や政省令を改正しなくとも 、政府内調整で可能という。金子国交相は実施時期について知事会や財務省などと協議して決める考えというが、退職手当や年金の地方負担廃止は、直轄負担金制度見直しの一部に過ぎず、地方分権改革の観点から制度全体の見直しをさらに進めてもらいたい。

 政府の地方分権改革推進委員会は先月、同制度の見直しに関し、道路などの維持管理費 の地方負担廃止を求める意見書を提出した。しかし、制度の根幹部分の見直しについては、国と地方の協議を促すにとどまっており、この点では知事会もまだ足並みはそろっていない。地方が結束して事に当たらないと、中途半端な見直しに終わる恐れもある。