現在の井川慶投手がメジャーで通用するかということに関する一考察
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前回の記事で「PitchFX Tool」をご紹介しましたが、今回はこのツールを早速用いて井川の投球についての考察を行なってみたいと思います。
最初に皆様がよくご存知のGamedayについて少々触れておきます。
Gamedayで用いられているのがPITCHf/x dataであり、「PitchFX Tool」もこのデータを使用したツールです。 他に、打者別でも投手別でも見られる別タイプのツール、 「PITCHf/x tool by Josh Kalk」をunknownさんが次の記事で紹介されておられます。 http://blogs.yahoo.co.jp/unknown_w_m/11053919.html
英文では、これらのツールを用いた分析が既に多く書かれていますが、
日本でもこれらのツールが周知され多くの分析がなされる日を楽しみにしております。
以下はGamedayデータについての参考ページとして挙げられるものです。
次のページ「Glossary of the Gameday pitch fields」も。
http://fastballs.wordpress.com/2007/08/02/glossary-of-the-gameday-pitch-fields/ トップページです。 http://fastballs.wordpress.com/
このサイトには図解記事もあります。
「View from the batter’s box」 http://fastballs.wordpress.com/2008/06/15/view-from-the-batters-box/
本題に入る前に「PitchFX Tool」で、興味深いと感じているグラフについて少し書いてみます。
*「Pitch Speed」のグラフは一目瞭然ですね。 球速,球速差,投球数に伴う球速の変化が見て取れます。 ゲームを観戦しながら見れば、球速面から観たピッチングの組み立てまでおさらいできてしまいます。 *「Strikezone Plot」では、制球の良し悪しが判ります。 選択窓を変えて「Change Plots」をクリックし、球種別,打者の左右で分けて見るとより適切に見られるかもしれません。 *「Release Point」、これも興味深いものです。 井川についての分析をご覧下さい。 ただし、ムースのように本来のリリースポイントを複数持つ投手がいる事には、注意が必要です。 *「Horizontal Break x Vertical Break」〜「Vertical Break x Speed」のグラフは、回転の影響を無視した場合からの実際のボールの軌道のズレを表すものですが、その主原因であるボールの回転自体のグラフがあるので、各球種毎にバラツキ具合を見るに留めておきます。 ただし、シーム(縫い目)の影響を考える際には使うかもしれません。 *「Spin Direction x Spin Magnitude」のグラフは、大変興味深いものです。 球種別で見ると良いと思います。 *「Spin Direction」は回転方向を表しますが、 完全なバックスピンが180°, 回転軸が地面に垂直で真上から見て時計回りのサイドスピンが270°, 回転軸が地面に垂直で真上から見て反時計回りのサイドスピンが90°, 垂直方向に落ちる完全なトップスピンが0°または360°になります。 他はご推察願います。 *「Spin Magnitude」は、回転数(RPM:毎分の回転数)を表します。 ボールの挙動の大きさに関係します。
また、選択窓で打者の左右を選んで「Change Plots」をクリックし、
「Create A Strike zone Map For This Game」を見れば、球審の左右のストライクゾーンもすぐ判ります。
それでは井川の投球についての考察に入ります。
私は(NPB時代の良かった年のピッチングを取り戻せればの話ですが)井川の可能性には期待もしています。 日頃彼に対して厳しい意見を述べていますが、見放している訳ではありません。 では、果たして現在の井川はメジャーで通用するでしょうか? ここでは巷間言われている「精神論」は除外し、データに基いてなるべく客観的に考察します。
「PitchFX Tool」で見られる井川のデータは2007年Sep 22以降のものだけです。
2008年May 9の成績は次のページ
http://www.baseball-reference.com/pi/gl.cgi?n1=igawake01&t=p で、IPの下の3... という所をクリックすれば出てきます。
2007年Sep 22以降の成績は次のページ
http://www.baseball-reference.com/pi/gl.cgi?n1=igawake01&year=2007&t=p から同様にして分かります。
2007年Sep 22は投球数が少なすぎるので、2008年May 9の投球が2007年Sep 25からどう変わったのか、「PitchFX Tool」のグラフを比較して見てみます。
以下を実際にクリックし、日付とチーム名,投手名(当然“Kei Igawa”ですが)を選択してそれぞれの試合におけるグラフをご確認下さい。 http://www.brooksbaseball.net/pfx/ なお、「Pitch Speed」「Release Point」「Spin Direction x Spin Magnitude」については画像をここに掲載致します。 (日付はそれぞれ上が2007年Sep 25,下が2008年May 9です) 「Pitch Speed」 「Release Point」 「Spin Direction x Spin Magnitude」 *「Pitch Speed」のグラフからは、速球の球速が平均的には時速2マイル以上、その他の球種ではさらに落ちていることが判ります。 *「Release Point」と「Horizontal Break x Vertical Break」のグラフで全体にバラツキが小さくなっている事が、速球,その他の球種共に制球を多少改善する要因になっている様子が窺えます。 (球種判断は2008年May 9の「Pitch Types」の同一項目のグラフから) また、リリースポイントはマウンド中央寄りに移動していることに気付きます。 (2007年と2008年の「Release Point」のグラフをクリックして開いたグラフを切り替えて見てみるとよく判ります) *「Spin Direction x Speed」のグラフからは、全体にボールの回転方向が変化した事と速球の回転方向の安定化が見て取れます。 *「Spin Direction x Spin Magnitude」のグラフからは、速球(※)の回転数(RPM:毎分の回転数)の減少が顕著である事が判ります。 ※2008年の「Pitch Types」のグラフから判断できます。 なお、2007年は「Pitch Types」と「Extra Detailed」のグラフを見ることはできません。 ☆リリースポイントのマウンド中央寄りへの移動は、全体にボールの回転方向が変化した事と速球の回転数の減少に対応したものである可能性を指摘しておきます。 分り易い言葉を使えば、2007年Sep 25は(比較的)力のある荒れ球、2008年May 9は球速を犠牲にして制球力は多少増した反面、球速の低下とも関連するボールの回転数の減少により速球の伸び・キレも失われて小さくまとまってしまったという印象です。
残念ながら、マイナーでは今回用いたものと同様のデータはありません。
ですから、“現在の”井川を検証することはできませんが、2008年May 9の時点から投球動作に目立った進歩が無い場合、先発であれリリーフであれ、メジャーで通用する可能性には大きな疑問符が付きます。 さらに言えば、2008年May 9の投球動作の延長線上に井川の復活を見出せるのかも大いに疑問です。
参考までに、井川自身は自分の投球をどのように考えているのか改めて調べました。
HPを一読しましたが、昨季はメジャーの登板間隔(中4日)と調整法に戸惑ったとの事。 また、そもそも調整不足でシーズンを迎えたため肩の仕上がりが遅れたようです。 今季はコーチと話し合い、彼独自の方法で投げ込みを行なっています。 2008年May 9の試合に関してはチェンジアップはきまったがスライダーが抜けたのが良くなかったと言っていますし、いまのところ腕も振れていて速球のコントロールもついたと自己分析をしています。
今季の井川の制球力は昨季と比較して多少なりとも改善されたと言えるでしょう。
しかし…。 2008年May 9の試合における井川の“速球”の球速が90マイルにも達していなかったことには今更ながら軽いショックを覚えました。 以下の記事を読みますと、メジャーで速球が88マイル出れば最低限何とか通用するとも…。 http://www.hardballtimes.com/main/article/how-fast-should-a-fastball-be/ しかし、井川の速球の特色(2007年9月の)は回転数が比較的大きいことにもあったのですが、その特色が消えてしまえば、ただの88マイルに過ぎないかもしれません。
メジャーは持ち味を失ってしまった選手が簡単に生き残れるほど甘い世界ではないのではないでしょうか。
だからこそ、選手達にも周囲に何を言われようと譲ってはいけない部分があるのだと思うのです。 |
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