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社説

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天安門20年―政治改革してこそ大国だ

 学生らによる民主化要求運動を中国当局が武力で鎮圧した、あの天安門事件から明日で20年になる。

 流血の惨事に世界は大きな衝撃を受けた。事件で孤立した中国の前途を危ぶむ見方は少なくなかった。

 しかし曲折を経ながらも、中国は経済成長を続け、日本を抜いて遠からず世界第2位の大国になる勢いだ。

 折からの世界同時不況のなか、中国の成長力への期待はふくらむばかりだ。その半面、中国の民主化への世界の関心は薄れてしまったようだ。

 米国のペロシ下院議長は、中国の人権状況をこっぴどく批判してきた。91年に訪中した時には、天安門広場で中国当局への抗議活動をした。そのペロシ氏が先月下旬の訪中時には、温暖化対策が重要なテーマだとして、人権もチベットにも踏み込まなかった。

 経済や地球温暖化だけでなく、北朝鮮の核問題など中国の関与が欠かせない問題が増え続ける。中国への配慮から、内政への批判や苦言を控える雰囲気があるとすれば極めて残念だ。

 ソ連崩壊や東欧の民主化の轍(てつ)を踏まず、延命を図りたい中国共産党も、独自の改革を進めてきた。

 その柱が、歴史的に民主化や反政府活動を担ってきた若者への対策だ。

 20年前、大学生の中で党員は1%にも満たなかった。今では8%以上だという。党内に取りこんで、党や政府に対する批判があればどんどん出してもらう。けれど発言は党内に限られ、外での批判は許されない。

 留学生の派遣や人事で党員を優遇する。指導部のブレーンにも若手を登用し、優秀な才能をつなぎとめている。

 若者の多くも大国、富国に導いてくれた党に敬意を払う。天安門事件についてはまず知らない。大規模な民主化運動は当面起きそうにもない、というのが中国の今の空気だ。

 党と行政、企業が一体であるという体制に20年間、大きな変化はない。

 党幹部とコネがある者が私腹を肥やすという構造は今も根をはる。13億の人口に対して党員は7400万余り。多くの国民は利権からは遠いところで暮らし、格差は広がる。

 天安門事件で失脚し、05年に亡くなった趙紫陽・元党総書記の回想録が最近、出版された。そのなかで趙氏は議会制民主主義を提唱している。民主主義がなければ、法治社会は実現しないし、社会は腐敗すると予言した。

 農地や住宅の強制収用、出稼ぎ労働者への賃金不払いや虐待と、現実は法治からはほど遠い。人権を守ろうとする弁護士に対して、免許更新を拒んでいるとの報告もある。「超大国」の実情としてはあまりにも悲しいことだ。

 政治改革はいずれ避けて通れない。苦痛が伴うだろうが、品格ある調和のとれた隣国に脱皮することを願う。

政策金融―民営化つぶしでは困る

 「日本政策投資銀行」の完全民営化が棚上げされる可能性が大きくなってきた。政府・与党は株式の全面売却の時期を3年ほど先送りする改正法案を今国会に提出していたが、民主党の要望を入れて、将来についても政府が株の3分の1超を保有し続けるという選択肢を盛り込むことになった。

 いまは世界経済危機で資金繰りに窮している企業が急増しており、本来ならメガバンクなどの民間銀行がその需要にこたえるべきところだ。だが実際には多くの銀行が経営の悪化を恐れて融資拡大に及び腰だ。

 そこで「企業の駆け込み寺」として政策金融への期待が高まっている。その実情を踏まえれば、2013〜15年とされていた政投銀の完全民営化を3年ほど先送りする改正法案の内容はやむを得ないと言える。

 だが、完全民営化の棚上げはどうか。3分の1超の株を政府が持てば、合併や買収などの重要な決定を拒否できる。これでは将来にわたって政府が経営に関与することになる。官僚の天下り問題や、民業圧迫問題をどう解消するのかも、あやふやにならないか。完全民営化で少なくとも2兆円と見込まれていた株式売却益が大きく目減りし、国家財政に影響することも考慮しなければならない。

 当の政投銀は、小泉政権下で民営化方針が決まった05年以来、資産と負債を圧縮し、民間としての生き残り努力を続けてきた。それが一転して政府の経済危機対策で「官製金融」の拡大が求められ、半年間で総資産は1.7兆円も増えた。政府が09年度補正予算で危機対応融資の枠を8兆円拡大したので、一層の肥大化は確実だ。

 未曽有の経済危機という特殊な状況だからこそ、国民は政府が政投銀を通じて企業の資金繰り支援に乗り出す意義を認めている。しかし、危機が去ったあとで、それはどの程度まで受け入れられるだろうか。

 経済危機対策の一環として、政投銀を通じて民間企業への公的資金の資本注入も近く始まる。音響機器メーカーや半導体大手が要請を検討している模様だが、可否は政投銀と経済産業省などの担当官庁が決める。これでは、支援する企業と支援しない企業を色分けする権利を政府が手にすることになってしまう。

 出資を決定するに至る手続きを第三者機関で進め、内容を国民に公表し記録に残す仕組みが求められる。それには10年前の金融危機の際、銀行への公的資金注入をまかされた金融再生委員会のような組織が必要だ。

 危機と平時。それぞれの状況に合わせた政策金融のあり方をじっくり設計し直さなければならない。それがないまま、なし崩しで民営化つぶしをするようなことは避けるべきだ。

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