SPECIAL TALK
#04 木原浩勝 作家
part 1
木原氏は、雑誌の切り抜きや、グッズのパッケージ、チラシなど、『ヤマト』に関するものを多数コレクションしている。
自分自身の人生の中で幸運だったのは、『宇宙戦艦ヤマト』放映以前に漫画家・松本零士先生のファンになっていたことでした。『サンダーバード』や「ウルトラホーク」(『ウルトラセブン』に登場するメカ)、あるいは東宝映画でメカニックの魅力なしに語れない作品が多い中で、アニメの世界の中になぜ魅力あるメカニックが登場していないのか?
これは当時の私にとってとても大きな不満でした。同じように、メカニックと独特の未来感、魅力あるキャラクターの個性を持っていた松本作品がアニメに使われないことが大いなる謎でした。つまり、当時の不満に対する答えは松本作品のブラウン管の登場で全てケリがつくというのが結論だったのです。
そこに一つの小さな囲み記事が新聞に載りました。翌月から放送するSFアニメーション(死語。笑)の記事でした。
タイトル:『宇宙戦艦ヤマト』
私が答えを得た瞬間でした。人の名でもロボットの名前でもなく、投げ出したような戦艦の名前のアニメーションタイトル、まさにアニメ史上において革命とも言えるタイトルでした。
そのせいでしょうか、アニメ番組の紹介記事にも関わらず、使用された写真は小さいながらも“空飛ぶ戦艦”そのものでした。その小さな写真の戦艦は、丸くもなく、翼もなく、大きな窓もなく、ただただ戦艦の名にふさわしい複雑なディテールを持ったデザインでした。待ち望んでいた人間に対する答えとしては充分以上のビジュアルインパクトでした。
この小さな囲み記事を喜びのあまり切り抜いてスクラップしたところから、私の人生が始まったと言っても過言ではありません。アニメ番組の記事などほとんど紹介されない時代、ビジュアルに飢えていた私は、絵という絵、記事という記事、写真という写真を集め、記憶に頼らないヤマトという世界を刻みつける人生を選択してしまったのです…。
PROFILE
木原浩勝
1960年生まれ。作家・怪異蒐集家。スタジオジブリに入社し、『天空の城ラピュタ』『となりのトトロ』『魔女の宅急便』などに制作として携わる。スタジオジブリ退社後、Jホラーブームの火付け役となった『新・耳・袋―あなたの隣の怖い話』で作家デビュー。その後、全10巻のシリーズとして再スタートを切り、累計で100万部を突破する。また企画・構成を担当した『空想科学読本』もミリオンセラーの大人気シリーズとなった。最近の出版プロデュースでは、『いつまでもデブと思うなよ』(著・岡田斗司夫)が50万部を売り上げ、話題を集めている。
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