SPECIAL TALK
#03 橋本敬史 アニメーター
メカやエフェクトで高い評価を受けているアニメーターの橋本敬史さんは、『ヤマト』に大きな影響を受けたアニメーターのひとりである。そんな橋本さんに、『ヤマト』の魅力と凄さについてコメントをいただいた。
Q1 一視聴者として、『宇宙戦艦ヤマト』に触れた時期はいつ頃のことでしたか。また、そのときの橋本さんは、どんな少年だったのでしょう?
A1 少年時代はTVをあまり見せてもらえなかったので、外でウルトラマンやライダーごっこをして、晩ご飯前に家に帰るという毎日でした。『ヤマト』は、小学校のときにリアルタイムで体験しています。友達の家に遊びに行ったとき、たまに見てましたね。当時のアニメはロボットものが多かったので、自分もそちらの方向に染まってましたから、『ヤマト』はなんだかムズカシイ大人の作品だなあと思っていました。1話完結じゃなかったのもそう思った理由のひとつでした。『ヤマト』にはまってしっかり見るようになったのは、再放送からだと思います、恥ずかしながら(汗)。
Q2 『ヤマト』のどこにいちばん感銘を受けましたか?
A2 まずはストーリーですね。勧善懲悪ではない、それぞれが自分の信じた正義のために戦う…大きくは星、国のために、小さくは自分個人のために、というところが凄いと思いました。それまでのアニメって敵は人間じゃなくて、必ずロボットとか怪獣だったのに、肌の色が違うだけの人間同士が戦っている衝撃! といったらなかったです。それにアニメで人間がリアルに死んでいる恐怖! も。過去や現代の起こっている戦争をいやがうえにも想起させられましたし、地球のために命を賭して戦っているヤマト乗組員のみんなに感情移入しました。
Q3 『ヤマト』でお好きなキャラクターやメカニックなどの設定を教えてください。
A3 メカは、ガミラスの超兵器感がなんとも好きでした。設定としては反射衛星砲のあの大袈裟な感じが、ドラマ部分も含めて燃えましたね。キャラクターは、やはり森雪がアイドルだったのでは? 古代の不器用な感じにヤキモキしていました(笑)。
メカはガミラスの兵器が好きでした。ヤマト全シリーズ合わせても、無駄のない美しいデザインだと思います。
Q4 アニメーターとして活躍されている橋本さんですが、プロの眼から見て、『ヤマト』という作品はどのあたりに革新性があったと思いますか?
A4 当時、メカといったら一品モノ(毎回新しい兵器が出る)であり、キャラクター(感情があるキャラもないキャラも含め)だったのに、『ヤマト』はまさに使い捨ての兵器が出てきたんです。同じ形のものがいっぱい出るというだけで新しさを感じましたし、壊れたら修理するというのも納得。新メカを導入するときも、ちゃんと開発の流れに沿った形での登場でしたし、眼からウロコが落ちましたね。地球とガミラスの圧倒的な力の差が、デザインでわかるように作られているのも、さりげないけど凄いと思います。
あと、いろんな方が指摘していると思いますが、「じらし」がとにかく上手い! 敵にしろ味方にしろ、弾やエネルギーは無尽蔵ではないですよね。ひとつひとつ大事なんです。だから慎重に狙って撃つ。大きい兵器ほど大がかりな段取りを取らねばならず、それは敵も味方も変わらない。そのタイムサスペンスをうまくドラマにからめてあるので、とにかくハラハラさせられました。波動砲やガミラス砲の設定はホントに良く考えられていると思いますね。波動砲を発射するときは、その間の全エネルギーを注ぎ込まないといけないとか、とにかく時間がかかるとか、すごくリアルで画期的な描写だったのではないでしょうか。
Q5 橋本さんがアニメーターになった理由を教えてください。『ヤマト』という作品の影響は大きかったと思いますが。
A5 当然のごとく『ヤマト』はカセットテープに録って、『ヤマト』の「ロマンアルバム」を見ながら聞いていた自分ですが、『ヤマト』で革新的な作画をしていらした金田伊功さんという方がいました。当時、厚手のノートを切って、自作のパラパラ漫画(しかもカラー!)を描いていたんですが、そこに描いたのも金田さんが作画したシーンでした。
そんな感じで金田さんの作画を追いかけていったら知らぬ間にこの業界に(笑)。アニメーターという職業を意識したのがまさにこの作品であり、金田さんでした。メカニックやエフェクトの仕事もいいなあ、と思ったのも『ヤマト』です。
Q6 21世紀の今、『ヤマト』がHDリマスター版で発売されるわけですが、リアルタイムで体験していない世代にどう見ていただきたいと思いますか?
A6 バタ臭さの中に洗練されたドラマがあるのが『ヤマト』です。今のアニメとは全然違う(何しろ、第1話でヤマトは出てこない!)流れだと思いますが、ぜひ全話見ていただきたいですね。ダレ場、ダレ話数がひとつもないのは凄いと思います。今活躍しているアニメ業界の人、ほぼすべてが何かしら『ヤマト』の影響下にあるのではないでしょうか。それほど凄い作品だということですね。
PROFILE
橋本敬史
1965年群馬県生まれ。メカニックやエフェクトの第一人者として活躍するアニメーター。『スチームボーイ』エフェクト作画監督、『鴉-KARAS-』の特技監督などを担当。近年は『怪〜ayakashi〜』『モノノ怪』のキャラクターデザインと総作画監督を担当し、人物描写でも実力を発揮している。
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