SPECIAL TALK
#02 大倉雅彦 アニメ監督
『戦闘妖精雪風』『BLUE DROP〜天使達の戯曲〜』で活躍中の大倉雅彦監督も、『ヤマト』をリアルタイムで体験した世代だ。第1話のオープニングで心を鷲掴みにされたという、大倉監督の熱い言葉を聞いてみよう。
Q1 一視聴者として『宇宙戦艦ヤマト』の最初のテレビシリーズに触れた頃の思い出を教えてください。大倉監督はどんな少年だったのでしょうか?
A1 最初に触れたのは小学校5年生の頃でした。アニメや特撮が好きで、マンガもよく読んでました。当時は僕、学級新聞にマンガを連載してました。ほら、クラスでいちばん絵がうまくて天狗になっている奴っているじゃないですか(笑)。あんなタイプの小学生でしたね。
地方に住んでいて、民放は2局しかなかったので、放映されてない番組もあったんですけど、ひと通りのアニメや特撮は見ている「わかったような気になっている嫌味なガキ」でしたね(笑)。いろんな番組を見るたび、「こりゃないよな〜」とか「ほう、こう来るか」みたいなね(笑)。
『ヤマト』のことを知ったのは、新聞に載っていた大きめの広告を見たときでした。「海を行くべき船が空をとぶ!』というコピーを見て、「いけてない…」と思った記憶があります。新しいものには、まず醒めた視点から入る…なんだか今の「2chねらー」と同じですね。まあそういうのが視聴者の本質なのかもしれないけど…。あとスポットCMを何度か見かけたんですけど、テンポが速くて何がなんだか全然わかりませんでした。
そんな小学生でしたから、とにかく「待機すれども期待せず」みたいな感じで、初放映の日に、TVの前で待ちかまえていたわけです。
Q2 実際に見た『ヤマト』はいかがでしたか?
A2 とにかく、オープニングで鷲掴みにされました! ヤマトが機動する効果音で始まって、「?」となったときに、イントロ無しの暗ーい舟歌みたいな曲に合わせて、スタッフのクレジットが出るじゃないですか。しかも筆文字で。「これはただごとじゃない」と思ったわけで…。
なんだか『ゴジラ』や『サンダ対ガイラ』みたいな東宝怪獣映画みたいじゃん、って思いました。当時、僕の中では東宝怪獣映画は頂点にあるものでした。重厚でしかも本格的な、子供を嘗めていない映像作品って東宝怪獣映画だけしかなかったんですよ。それで、『ヤマト』を見た途端、「東宝怪獣映画みたいなアニメだ!」と。あ、ちなみに家のテレビは白黒でした。それも良かったんじゃないかなー。
Q3 『ヤマト』のオープニングについて、ほかにどんな魅力を感じましたか?
A3 あの複雑な形状のヤマトが動きまくっていたところです。それはもう衝撃で。それまでのアニメって、ややこしい形状のものは止め絵だったんです。それが「これでもか!」というぐらいに活き活きと動いているわけですから。
あと、このオープニングってヤマトしか出ませんよね。途中で艦内のカットがあるんですけど、佐渡先生が手を上げているのが目立つ程度で(笑)、どれが誰だか全然わかんなかったですし。なんだか新しい志のようなものを感じました。今見返して思うんですけど、当時のスタッフの方々は全力で『ヤマト』本体を売ろうとしていたんでしょうね。それ以来、TVの前で正座して息を詰めながら放映を待ちかまえるようになりました。
自分はヤマトの乗組員だと思って見てましたね(笑)。ただ、見ていてすごく切なかったです。というのも初めてオープニングを見たときに、自分はヤマトの艦内にいるような気分になったんですけど、そのあとヤマトが大宇宙の中に遠ざかっていくときの後ろ姿がね、もう切なくて切なくて…ぴゅーっと置いていかれるような感じがありました。
Q4 『ヤマト』でお好きなシーンを教えてください。
A4 いろいろありますよ。「真っ赤な地球」とか。TVが白黒でもちゃんと「赤く」見えたんですよ! それから「火星基地から古代と島の乗った百式機が沖田鑑に収容!」するシーンとかも大好きです。
とどめは第1話ラストの「夕陽の中に眠る赤錆びた大和」です。あのシーンで古代と島が「これはなんだ?」みたいなことを言うじゃないですか。ヤマトに決まってますよね(笑)。オープニングで地盤が崩れてヤマトが飛び立つカットもあるわけですから、思い切りネタバレなんだけど、その自信満々な描き方に強烈な美意識を感じますね。
Q5 アニメ監督として活躍中の大倉さんですが、『ヤマト』からどのような影響を受けているのでしょうか?
A5 それはもう、顰蹙買うぐらい影響を受けてます(笑)。『ヤマト』のような作品を作りたくてアニメ界にいるわけですから。ただし、それは「次回のヤマト」とか「ヤマトのリメーク」という意味ではなくて、「自分がヤマトを感じたものを、他者に伝えられる作品」を作りたいという意味です。
僕は『ヤマト』からそれまでにない本気の球を受け取ったような気がするんです。とにかくすごい勢いの球をね。自分もそういう球を投げられるといいんですけど、なかなかね…でも、何かを込めて投げれば、受け止めてくれる人は必ずいるじゃないですか。そういう人が多ければ多いほどその作品は大ヒットするんだろうけど、とりあえず何かを込めないと始まらないと思います。
Q6 21世紀の今、『ヤマト』がHDリマスター版で発売されたわけですが、リアルタイムで体験していない世代に、どう見ていただきたいと思いますか?
A6 当時と今ではアニメの作り方はまったく違います。それこそ戦前と戦後の交通事情のように、電車も車も歩いている人も違う。でもいつの時代でもスーパーカーのような作品を作ろうとした人はいたわけで、それが『ヤマト』だったと思います。
『ヤマト』には、ものすごい労力と試行錯誤の上に初めて成立したものがあると思います。当時のスタッフがいかにアヴァンギャルドなことをしようとしていたか、その志を見ていただくのがいちばんいいんじゃないでしょうか。かつて燦然と輝いていた『ヤマト』という作品があって、その輝きは今の日本のアニメ界の繁栄に繋がっています。「残る作品」っていうのはそういうものだと思います。そのあたりを踏まえつつ、一般教養として気楽に見ていただくのがいいのではないでしょうか。
PROFILE
大倉雅彦
1963年東京生まれ。『まじかるタルるーとくん』『Coo遠い海から来たクー』などの作画監督を経て、『戦闘妖精雪風』で監督デビュー。最新監督作に『BLUE DROP〜天使達の戯曲〜』がある。
© 東北新社