TV DVD-BOXプロジェクト発進! 監修:西崎義展 発売:バンダイビジュアル 2008年2月22日発売予定

INTERVIEW

INTERVIEW 映画監督 樋口真嗣

 

今回のHDリマスター版の画面のクリアさに驚きました!

──「宇宙戦艦ヤマトTV DVD-BOX」HDリマスター版をご覧になっていかがでしたか?

樋口 いやあ、すごく綺麗ですよね。僕にとっての『ヤマト』は、昔のテレビのブラウン管で見た『ヤマト』ですから、あまり綺麗じゃない絵だというイメージがあったんですよ。

──昔のブラウン管は解像度も低いし、色の再現度もそれほど良くなかったですからね。でも今回のHDリマスター版は、背景がすごくクリアに見えますね。

樋口 昔、俺が見た『ヤマト』とは違うものになっているんですね。それはいい意味で新鮮ですね。初めて見るものって印象すらあります。

──セル画の傷すら見えますからね(笑)。それくらいクリアですし、まず第1話を見て驚いたのが、宇宙の色が紺と黒のグラデーションになっているんです。

樋口 ああ、ブラウン管だと黒か紺のベタ塗りに見えますからね。

──これが本当のヤマトの宇宙の色なのかと、感無量でした。30年以上待った甲斐があったという気がします。樋口さんはどのシーンが印象に残りましたか?

樋口 七色星団のところです。あのシーンはすごい。

──22話ですね。

樋口 そうです。あの回は友永和秀さん(※1)の作画でしたよね?

──友永さんを始めとするタイガープロダクション(※2)の作画です。とくにあの22話に関してはタイガープロダクションは地獄だったみたいです(笑)。

樋口 そうなんですか。あの回のエフェクトはすごかったですからね。

──22話に限らず、背景が手に取るように見えますから、『ヤマト』はアニメとして、ものすごくこだわりを持って作られたことがよくわかるんです。

樋口 ここまで描くか、っていうところがありますよね。僕はアニメの仕事をやるようになってわかったんですけど、こんなことTVで毎週やったら死んじゃうよ、みたいな(笑)。

──セル画が6枚重なっているシーンもあったりしますから。ヤマトの第一艦橋の全景シーンとか。

樋口 そうですね。砲台もちゃんと動いてますからね。『ヤマト』はそうしたところをきちんと描いているところが素晴らしいですよ。そこが『ヤマト』を好きになった理由ですね。それまで僕はアニメがあまり好きじゃなかったもので。

──どのあたりが?

樋口 本物っぽく見えなかったからです。『ヤマト』より前のアニメの絵はパースとかちゃんとしてないじゃないですか。絵のタッチでごまかしているような気がして。

──なるほど。

樋口 爆発シーンの背景も、1枚の背景を揺らすだけだったりして、正確ではない感じがしたんですよ。だからどちらかというと実写や特撮のほうが好きでした。

──それでは『ヤマト』の最初の本放送は?

樋口 見てないんです。とういうか、見られなかったんです。僕の実家ではチャンネル争いがあって、夜8時からのTV版『日本沈没』(※3)を前年公開の映画版の追体験として見るかわりに、7時半からの『ヤマト』は見ないで爺ちゃんが『お笑いオンステージ』(※4)を見ることになっていたんです。

──じゃあ『ヤマト』は再放送でご覧になったんですね。

樋口 ええ。夕方の再放送を見たのが最初です。そのときは小学校5年ぐらいのときでした。

──特撮好きの小学生として、『ヤマト』はどうでしたか?

樋口 これはいい! と思いましたね。ヤマトを始めとするメカがちゃんと動くわけじゃないですか。そこにやられましたね。あとは音響。テープで録音したのを何度も聞いて追体験したせいで分析できるんだけど、すごい数の曲やBGMがあるじゃないですか。あと効果音も素晴らしい。『ヤマト』のあと、いろんなSFアニメが出てきましたけど、これほど効果音がすごかった作品はなかったですね。

──音楽は宮川泰さん(※5)で、音響効果は柏原満さん(※6)、そして音響監督が田代敦巳さん(※7)という最強の布陣でした。

樋口 『ヤマト』の音というのは、34年前に作られたものとは思えないほど、完成度が高いですね。音楽の付け方はいまでもいろいろ刺激を受けています。

 

ランナーの状態でも非常に美しいインジェクションキット

──樋口さんが『ヤマト』に夢中になったのは小学生のときだとすると、劇場版で並ぶまではいかなかった?

樋口 さすがにそこまではいかなかったです。『ヤマト』って僕よりちょっと上の年代の子たちの、兄ちゃんたちのものだったんです。そういう上級生たちが「ヤマトヤマト」って騒いでいたのを覚えています。それで小学5年生あたりからようやく『ヤマト』に目覚めたんですけど、当時はテレビで見たらそれで終わりじゃないですか。追体験できないというか。

──ビデオはまだ普及してなかったですからね。

樋口 せいぜいカセットテープで録音するぐらいしかできなかった。その中で「月刊OUT」(※8)とか「ロマンアルバム」(※9)が出ているのに気づいたんです。

──それで買ってもらったり?

樋口 ちょうどこづかいも上がった時期でしたからね。でも友達の中で同じものを欲しがる奴が出てきて、争奪戦になった(笑)。

──そうなんですか(笑)。

樋口 僕の実家はいわゆる田舎だったので、ちゃんとした本屋さんがないんですよ。それで探そうということで、自転車で町中走り回ったりしました。でも発見できなくてね。隣の町のタバコ屋の軒先に雑誌のスタンドがあって、そこで1冊だけ発見したんです。

──じゃあ、お宝を探すために冒険また冒険という感じで(笑)。

樋口 そうなんですよ。で、クラスの誰よりも早く入手して、それを見てヤマトを描いてました。当時はヤマトが描けたら人気者になれましたから、簡単な時代でしたね(笑)。

──『ヤマト』が大ブームになって、いろんな商品が出ましたね。樋口さんはヤマトのゼンマイ仕掛けのプラモデル(※10)は買いました?

樋口 もちろん買いましたよ。確か劇場版が公開された頃だと思います。

──ゼンマイで走らせましたか?

樋口 いや、どうやってゼンマイ部分を隠そうかと思って、紙粘土をくっつけて、ヤマトの本当の形に近づけようとしてました(笑)。あと、同じ大きさの戦艦大和のプラモデルを買ってきて、上の部分を付け替えようとしたり。

──それで、今回の特典の「1/700インジェクションキット」ですが、よくぞここまでのレベルに来たかという感じで。

樋口 僕、最近思うんですけど、バンダイのプラモデルってシド・ミードの『∀ガンダム』のマスターグレードシリーズ(※11)を見たときもそう思ったんですけど、ランナーの状態がいちばんカッコいいですね。この「1/700インジェクションキット」もそうです。21世紀の科学が生んだ芸術品です。あのヤマトをよくこんな形に分解できたな、と感動しますね。艦橋(司令塔)部分のパーツとかすごいじゃないですか。あれを一発で型抜きしてるから、そこが最高ですね。ほんと、あのランナーからパーツを切り離していいのかなと(笑)。

──バンダイ・ホビー部のこだわりというか、メーカー精神というか。

樋口 それが僕のつたない工作技術が台無しにしたら申しわけないじゃないですか(笑)。かと言って、人が作ったのを見ると作りたくなる。そこがつらいところですね。もうワンセット欲しい(笑)。

──このインジェクションキットも含めて、今回のHDリマスター版は、『ヤマト』をリアルタイムで体験していない世代にもアピールすると思いますが。

樋口 そうですね。『ヤマト』がなかったら僕はこんな仕事をしていないと思うし、もっとつまらない人生を送っていたんじゃないかという気がします(笑)。なんだか交通事故に遭った感じです。『ヤマト』にぶつからなかったら、僕は今のような能力を身につけていませんから。

──多くの才能をアニメ業界に引き入れ、業界を成長させたのは、他ならぬ『ヤマト』ということですね。

樋口 マスターピースと呼べるものは、そういうものだと思います。

──あとセルアニメの魅力というものがありますね。

樋口 確かにデジタルで作られたアニメでは絶対に表現できないところがあります。だから、若い人たちも『ヤマト』に興味を持って見てくれたら、作り手の人たちがものすごく頑張って作っていることがわかるはずです。そこを感じてくれたらいいですね。

──樋口さんもそうですが、現在活躍しているクリエイターで『ヤマト』に影響を受けている方はたくさんいらっしゃいます。そこが『ヤマト』のすごいところですね。

樋口 『ヤマト』はすべての原点という気がしますよ。ほんと、生きてて良かったです、『ヤマト』があって。そしてこうやってまた出逢えて(笑)。

──本日はどうもありがとうございました。最新作の『隠し砦の三悪人』とともに、今後のますますのご活躍を期待しています。

 

 

※1 友永和秀
1952年生まれ。東映動画を経て、タイガープロダクションに所属し、『ヤマト』の第2話の旧大和登場シーンや、第22話の七色星団でのクライマックスシーンなどの原画を担当する。のちに宮崎駿監督の『名探偵ホームズ』や『ルパン三世カリオストロの城』でも才能を発揮。現在、アニメ制作会社・テレコムの取締役を務めている。

※2 タイガープロダクション
『ヤマト』で作画監督をつとめた白土武氏が1971年に設立した作画スタジオ。『ヤマト』では計8話分の原動画を担当。ちなみに第22話は友永氏をふくむ9名の作画スタッフが50日もかけて制作された。

※3 TV版『日本沈没』
1974年の10月から75年の3月までTBS系列で放送された、小松左京原作のSFパニック特撮ドラマ。出演は村野武範、由美かおる、小林圭樹、小川知子など。本作と73年に東宝系で公開された映画版に大きな影響を受けた樋口監督は、06年に、柴崎コウ主演でリメイクした。

※4 『お笑いオンステージ』
1972年から82年までNHK総合で放送されたバラエティ番組。司会は三波伸介と中村メイコ。三波伸介が芸能人の家族とトークをしながら似顔絵を描く「減点パパ」(のちに「減点ファミリー」)が名物コーナーだった。

※5 宮川泰
1931年生まれ。昭和の歌謡界を代表する作曲家。ザ・ピーナッツや植木等の楽曲やテレビ番組「シャボン玉ホリデー」「ズームイン!!朝!」などの音楽を担当。06年没。

※6 柏原満
虫プロダクション作品や、『ヤマト』一連の作品、シンエイ動画『ドラえもん』、エイケン『サザエさん』、スタジオジブリ『平成狸合戦ぽんぽこ』などの効果音を付けたベテラン音響効果マン。

※7 田代敦巳
納谷悟朗さんインタビュー ※3参照

※8 「月刊OUT」
1977年から95年にかけてみのり書房から刊行されたサブカルチャー系アニメ誌。創刊2号の巻頭で『ヤマト』を特集(伊藤秀明氏も参加)し、雑誌としては異例の増刷をおこなうほどの売り上げを記録するなど、それまでにないアニメ評論やパロディ企画で人気を博した。

※9 「ロマンアルバム」
徳間書店の児童向けテレビ雑誌「テレビランド」の増刊として、1977年より刊行されたシリーズ。その第1弾が「ロマンアルバム宇宙戦艦ヤマト」で、大ヒットを記録する。翌年「アニメージュ」創刊のきっかけとなった。

※10 ゼンマイ仕掛けのプラモデル
1974年にバンダイより発売された。露出した車輪でゼンマイ走行するヤマトのプラモデル。艦首の波動砲からは、ミサイルがスプリング発射できるようになっており、艦内にミニコスモゼロ、ミニ探索挺、ミニアナライザーが収納できた。

※11 マスターグレード(MG)シリーズ
『機動戦士ガンダム』のモビルスーツを1/100で再現する精巧なプラモデルシリーズ。バンダイより発売されている。「∀ガンダム」のMGはこのシリーズの100体目にあたり、シド・ミードのオリジナルデザインに忠実に作られた。

伊藤秀明氏

PROFILE
樋口真嗣(ひぐち・しんじ)
1965年生まれ。高校卒業後、84年『ゴジラ』の造型助手として参加。85年、DAICON FILM『八岐之大蛇の逆襲』の制作に関わった縁でガイナックスに所属し、『王立宇宙軍〜オネアミスの翼』などで助監督を務める。95年『ガメラ大怪獣空中決戦』の特技監督となり、日本アカデミー賞特別賞を受賞。映画監督としてのデビュー作は02年の『ミニモニ。THE ムービーお菓子な大冒険!』。以降、05年『ローレライ』、06年『日本沈没』を監督し、ヒットメーカーとして活躍中。最新作は黒澤明の『隠し砦の三悪人』のリメーク(5月10日・全国東宝系で公開予定)。

『隠し砦の三悪人』公式サイト
http://www.kakushi-toride.jp/

  伊藤秀明氏

INTERVIEWER
伊藤秀明(いとう・ひであき)
1957年生まれ。イラストレーター兼編集者。編集会社「銀英社」の設立メンバーで、雑誌「ファンロード」やアニメムック本の編集、セル画ワークを多く手掛ける。「月刊OUT」の『ヤマト』特集号に参加して以来、『ヤマト』研究の第一人者となる。今回のHDリマスター版では、ビジュアルコーディネーターとして参加。また、「DVD-BOX記録ファイル」の編集・執筆・構成レイアウトも担当している。「サンダーバード研究家」としても名高く、多くの『サンダーバード』の書籍を編集している。

※参考文献:宇宙戦艦ヤマトDVDメモリアルボックス 保完ファイル(編集・構成/伊藤秀明)

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