考察・アニメブーム期の映画興行成績/2002.10.28.
【きっかけ】
 映画版「銀河鉄道999」が、アニメブーム期に作られた大ヒット作品であることは、よく知られているが、果たしてそれがどの程度のものだったのか、ということを疑問に持った。
 ヒットというものの、ひとつの目安になるのが、配給収入や興行収入と呼ばれるものである。そこで今回、アニメブームのきっかけとなった「宇宙戦艦ヤマト」が公開された1977年から、「ヤマト」シリーズ最後の「完結編」が公開された1983年までの、主なアニメーション映画の配給収入一覧を作ってみた。
興行収入……入場料収入。 配給収入……興行収入のうち、劇場側の取り分を除いた、配給会社側の収入。
【配給収入一覧表】
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| 公開年 | 映画タイトル | 配給収入(円) | 
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    1977年 (昭和52年)  |  
    宇宙戦艦ヤマト | 約10億{*9億3000万} | 
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    1978年 (昭和53年)  |  
    さらば宇宙戦艦ヤマト | 21億(21億) | 
| ルパン三世(マモー編) | 9億(9億1500万) | |
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    1979年 (昭和54年)  |  
    銀河鉄道999 | 17億(16億5000万) | 
| エースをねらえ! | 不明{惨敗} | |
| がんばれ!!タブチくん!! (1) | 7億 | |
| ルパン三世 カリオストロの城 | {4億?} | |
| その他 龍の子太郎、星のオルフェウス、アルプスの少女ハイジ、未来少年コナン、海のトリトン、など | ── | |
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    1980年 (昭和55年)  |  
    あしたのジョー | 5億 | 
| 森は生きている(東映まんがまつり) | 8億 | |
| ドラえもん(1) のび太の恐竜 | 16億(15億5000万) | |
| 地球へ… | 4億 | |
| がんばれ!!タブチくん!! (2)激闘ペナントレース | 5億 | |
| ヤマトよ永遠に | 13億(13億5000万) | |
| がんばれ!!タブチくん!! (3)あゝツッパリ人生 | 5億 | |
| サイボーグ009 超銀河伝説 | 5億 | |
| その他、火の鳥2772、まことちゃん、11ぴきのねこ、家なき子、母をたずねて三千里、など | ── | |
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    1981年 (昭和56年)  |  
    ドラえもん(2) のび太の宇宙開拓史 | 18億(17億5000万) | 
| 機動戦士ガンダム(1) | 9億 | |
| 機動戦士ガンダム(2)哀・戦士編 | 8億 | |
| さよなら銀河鉄道999 | 12億(11億3000万) | |
| その他、白鳥の湖、ユニコ、じゃりン子チエ、あしたのジョー2、シリウスの伝説、21エモン、マンザイ太閤記、宇宙戦士バルディオス、シュンマオ物語、など | ── | |
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    1982年 (昭和57年)  |  
    ドラえもん(3) のび太の大魔境 | (12億2000万) | 
| 機動戦士ガンダム(3)めぐりあい宇宙編 | 13億(12億9000万) | |
| 1000年女王 | 10億(10億1000万) | |
| わが青春のアルカディア | 6億5000万 | |
| その他、アラジンと魔法のランプ、おはよう!スパンク、象のいない動物園、戦国魔神ゴーショーグン、浮浪雲、コブラ、Dr.SLUMP、伝説巨神イデオン、対馬丸、FUTURE WAR 198X年、六神合体ゴットマーズ、など | ── | |
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    1983年 (昭和58年)  |  
    幻魔大戦 | 11億(10億6000万) | 
| 宇宙戦艦ヤマト完結編 | 10億 | |
| その他、うる星やつらオンリー・ユー、クラッシャージョウ、ドラえもん(4)のび太 の海底鬼岩城、ゴルゴ13、ユニコ魔法の島へ、ナイン、パタリロ!、プロ野球を10倍楽しく見る方法、ノエルの不思議な冒険、まんがイソップ物語、ザブングルグラフィティ、など | ── | 
(注)「配給収入」は単行本「宇宙戦艦ヤマト伝説」(安斎レオ編)の中の一章、「ある怪獣おたくが見た『宇宙戦艦ヤマト』の時代」(執筆者/元山掌)を基にした。カッコ内“( )”はHP「キネマ旬報 全映画作品データベース」に基づく数字。
【考察】
この当時は、配給収入10億円以上が、ヒット作の一応の目安だったようである。こうして見てみると、配給収入10億円以上の作品は、
(1)「ヤマト」シリーズ(第1作:10億、さらば:21億、永遠に:13億、完結編:10億)
(2)「1000年女王」までの松本零士作品(999:17億、さよなら999:12億、1000年女王:10億)
(3)「ドラえもん」シリーズ(第1作:16億、第2作:18億、第3作:12億)
(4)「ガンダム」シリーズ(第3作が13億。第1作、第2作は10億円以下だが、かなり健闘した)
と、ごく限られたものだけで、「銀河鉄道999」の17億円は「さらば宇宙戦艦ヤマト」の21億円には及ばなかったものの、それに次ぐ大ヒットと見てもよさそうである。
 驚くのは「ドラえもん」シリーズの存在である。
 アニメブームを担った中高生以上の若者向けの作品が、「10億円あればヒット」と言われる状況の中で、「ドラえもん」は第1作が16億、第2作が18億、第3作が12億と抜群の興行成績(配給収入)を残している。あの「ガンダムV(3)・めぐりあい宇宙編」よりも、「のび太の恐竜」(第1作)や「のび太の宇宙開拓史」(第2作)の方が沢山の観客を集めているわけで、実にあなどれない存在なのだ。「『ドラえもん』は、子供が親同伴で来るから、数の上では有利」と指摘する声もあるが、長年子供向けの作品を上映し続けてきた「東映まんがまつり」が、大ヒットと呼ばれる「森は生きている」(1980年)でさえ、約半分の8億円である。「ドラえもん」の集客力のすごさは、単純に親同伴の子供向けだからではなく、作品の中に揺るぎない魅力があるから、と認めざるをえない。
宮崎駿監督の「ルパン三世・カリオストロの城」や出崎統監督の「エースをねらえ!」などは、今もその名を知られる傑作だが、映画公開当時は全然ヒットしなかったというのは、よく知られた話である。具体的な数字が分からないのだが、「カリオストロの城」は、かなりヒットとした第1作の「マモー編(ルパン対複製人間)」の約半分、もしくは半分弱と一部資料(「キネマ旬報・THEルパン三世FILES」、「東京ムービーアニメ大全史」)には書かれており、「マモー編」が9億円であることから、「カリオストロの城」は約4億円くらいだったのではと推測している。宣伝ポスターには「製作費5億円」と書かれていたが、宣伝費・配給手数料なども含めると、映画の収支だけではどう見ても赤字であり、とてもヒット作とは呼べないものだったことが分かる。