厚生労働省が、公的年金の世代や世帯類型別の受取額と負担額などの試算をまとめ、社会保障審議会年金部会に示した。
年金財政の持続性を5年ごとにチェックする「財政検証」の一環だ。世代間格差が広がり、給付水準は現役世代の手取り収入の50%を維持するという政府の約束も実現が不安な状況にある。「百年安心」と政府が太鼓判を押した制度が、大きく揺らいでいるといえよう。
世代間についてみると、夫が40年間厚生年金に加入し、妻が40年間専業主婦で、来年70歳になるモデル世帯で受け取れる厚生年金は約5600万円になる。約900万円の保険料納付額に対し6・5倍だ。ところが30歳以下の世代では、受け取れる年金は、保険料の2・3倍にとどまる。
年金改革を実施した2004年時点では6・3倍と想定していた70歳世代の倍率が上昇する一方、若年層は横ばいとなる。国民年金でも格差は拡大した。
原因は人口減少に応じて給付を抑制する「マクロ経済スライド」の仕組みが、デフレなどの経済環境の変化で働かないことが背景にある。
現役世代の収入に対する厚生年金の給付水準を示す所得代替率についても、将来見通しは暗い。40年間専業主婦のモデル世帯では、09年度に65歳となる夫婦で受け取る年金の所得代替率は62・3%で、50年度は50・1%。かろうじて50%を確保できるのはモデル世帯だけで、40年間夫婦共働きの世帯や男性単身世帯は、09年度で早くも50%を切り、50年度には40%を割り込むことになる。
これは夫の収入を2人で分け合う専業主婦世帯の方が、1人当たりでは共働きや男性単身世帯よりも低所得となり、年金の所得再分配機能が働くためだ。共働き世帯の数が専業主婦世帯を上回っている今日、モデル設定が現実とかけ離れていると批判が上がるのも当然だろう。
年金制度を抜本的に見直すしかない。少子高齢化で年金財政は大きな不安を抱えている。世代間格差が進めば、年金制度を支える若い世代の年金への不信感や不満はさらに高まろう。保険料納付率の低下がますます進む懸念もある。
年金は医療や介護などとともに老後の重要な生活の支えである。今回の試算結果を本当に国民が安心できる制度にするために活用し、次期衆院選でも争点にしたい。党利党略を離れ、制度設計まで踏み込んで改革議論を深めるべきだ。
麻生太郎首相は、3日までの今国会会期を7月28日までの55日間延長することを決めた。2日の衆院本会議で議決される。
延長理由は、2009年度補正予算関連法案などの成立を図るためとされる。通常国会は一度しか会期を延長できないため、補正予算関連法案を確実に成立させるには、民主党が抵抗しても「60日ルール」を適用して衆院再可決が可能になるまでの大幅延長が必要として調整を進めていた。
だが、衆院で審議中の補正予算関連法案のうち4法案は民主党と修正などで合意し、5日までに順次、衆院を通過する見通しになっている。同じ補正予算関連の税制改正法案は、既に参院に送られている。
民主党の岡田克也幹事長は、補正予算関連法案の参院での対応について「時期が来たら採決するのは異論ない。時間がそんなに長くかかることはない」と述べている。麻生首相に衆院解散を促すため、法案の早期採決に協力する姿勢を示した発言といえよう。民主党が抵抗を強めるようなことがなければ、重要法案の成立が早まることも考えられる。
首相は、未曾有の経済危機に対応するため、景気対策が最優先課題だとして大規模な財政出動を次々と打ち出した。はっきりした効果はまだ見えないが、今回の補正予算関連法案が成立すれば首相の思い描く対策にめどをつけたことになろう。
大幅会期延長は首相の延命策だとの批判が出ている。民主党の代表交代で麻生内閣の支持率が低下し、厚生労働省分割をめぐる迷走劇では首相の指導力欠如が露呈した。支持率上昇を狙ってずるずると国会を引き延ばすようだと、かえって非難の声が高まりかねない。民意を問う首相の覚悟が問われる。
(2009年6月2日掲載)