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映画は細部に宿る 髙山文彦

映画マニアとしてアニメ業界に名高い髙山文彦監督に「映画の細部」を聞こうという本連載。「細部」が話題だけに、話題もあっちこっちの寄り道ほうだい。今回も果たしてどこまで行くのやら。

第3回 黒澤明と『断絶』、ちょっぴり『マクロス』

―前回に引き続き名前の話なんですけれど、素朴な質問ですが『ストレンヂア 無皇刃譚』の名無しっていうのは誰が決めた名前なんですか

髙山 あれは監督の安藤(真裕)君。さすがに名無しって言いにくいから、何かあだ名をつけたらどうかって提案したんだけれど、「いや、名無しでいきたい」っていうんで。俺は、そういう監督のこだわりにはちゃんと従うほうだから(笑)

―なんか某掲示板からとったんじゃないかとか邪推してしまったんですよ。名前のない主人公ってあまりいないじゃないですか

髙山 ただ、黒澤(明)の時代劇に出るとき、主人公の三船敏郎、ほとんど偽名なんだよね。ほら『用心棒』(1961年)の桑畑三十郎、それから『椿三十郎』(1962年)もその場ででっち上げた偽名でしょう。『七人の侍』(1954年)の菊千代も偽名

―そういえば偽の家系図をつかって武士だと言い張っているっていう設定でした。

髙山 そうそう、いい大人が幼名の「菊千代」という名前で呼ばれるというのがギャグになっていた。『赤ひげ』(1965年)の三船は、新出去定(にいで・きょじょう)っていうちゃんとした名前があるけれど、あだ名の赤ひげのほうばかりが出てくるでしょう・・・・・・まあ、これは山本周五郎の原作どおりではあるけれど。

―すると前回の話で言うと、黒澤監督はかなり偽名・記号系の命名なんですね。

髙山 もろに名前が出ている少数例のひとつが『隠し砦の三悪人』(1958年)の真壁六郎太(まかべ・ろくろうた)。これは勝手な推測だけれど、『隠し砦』の前年が『マクベス』の翻案の『蜘蛛巣城』(1957年)でしょう。マクベスをもじった名前をその時に用意したけれど、ネーミングがモロすぎるとか、なんか理由があってその時は使うのを辞めた……それでも気に入った名前なんで、後の『隠し砦〜』で使ったんじゃないかな、とも思うんだけど。

―ああ、それはありそうですね。マクベスは『機動戦士ガンダム』のマ・クベとか、『バンパイヤ』の間久部緑郎あたりも、元ネタにしているっぽいですが。

髙山 そういえば『超時空要塞マクロス』。あれも広告代理店のビッグウウエストの大西良昌社長が『マクベス』が好きだからっていうことで、マクロスと命名したとか聞いた。

―へぇ、そうなんですか。そういえば今、深夜で再放送やってますね。高山さんが演出担当だった第2話とか見たら、ものすごく正攻法な作りでしたね。

髙山 第2話「カウント・ダウン」は河森(正治)君が絵コンテだからメカシーンとかも逃げないで描いてあるんで、大変だった。もともと担当じゃなかったのに、石黒(昇監督)さんに無理矢理引き受けさせられた。そうそう第2話「カウント・ダウン」だと、バルキリーが脚の向きを変えて逆噴射するカットがあるんですけど、あれが庵野秀明の商業アニメ初カットだったと思う。

―『マクロス』はいろんな人材が集まっていたんですね。そう『マクロス』といえば今度出るDVD-BOXだと、第11話「ファースト・コンタクト」の放映版が特典映像で収録されるそうですね。放映時は、スケジュールの都合で動画が間に合わない状態で、放映されたといういわくつきのものですが。

髙山 いや、あれはバンダイビジュアルにもちょっと嫌味言ったんだけどさ、担当演出だった俺にとっては嫌がらせとしか思えない(苦笑)。放送後にリテイクして差し替えているんで、放送時のネガは残っていないけれど、ポジプリントは残っていたみたいで、それからの収録らしい。第11話、動画は撒き終わってたのに、途中で作業にストップが掛かったの。次のアニメフレンドが担当する第12話「ビッグ・エスケープ」もだいぶ遅れていたんで、第11話は最低限のところで泣いて、第12話をなんとかしようという上のほうの判断だったらしい。第11話はやろうと思えばもう少しましな形で放映出来たはずなんだけど、それやってたら、玉突き状態でどこかで破綻が来る、という事だった。仕方ないといえば仕方ないんだけど、当時はショックでねえ・・・・・・。

―『マクロス』は、いろんなエピソードを聞きますけど、大変だったんですね……。っと、話題を名前のほうに戻しましょうか。

髙山 そうしようか(笑)。そう偽名・記号系のネーミングで、前回は管理社会で名前が奪われている象徴という例を出したじゃない。

―ええ、『THX1138』(1971年)とか『プリズナーNo.6』(1967年)とかですね。

髙山 そうじゃないパターンとして、名前を他人に知られるとまずい時や、お互いの名前を知らない方が都合がいい場合・・・・・・犯罪を決行する時なんかに互いに相手を記号で呼ぶ事がある。『レザボアドッグス』(1992年、クエンティン・タランティーノ監督)とか、それに先だって『サブウェイ・パニック』(1974年、ジョセフ・サージェント監督)が、メンバーを色の名前で呼んでる。

―Mr.ピンクとかそういうやつですね。

髙山 うん。『大脱走』(1963年、ジョン・スタージェス監督)の脱走計画の首謀者を、仲間がビッグ・エックスと呼ぶのも同類のパターン。それで記号としての名前で、いちばん究極なのはモンテ・ヘルマン監督の『断絶』(1971年)だと思う。

―それはどういう映画なんですか?

髙山 男二人が街道レースをやりながら金を稼いで旅をするというロードムービー。主演コンビがシンガーソングライターのジェームス・テイラーと、ビーチ・ボーイズのデニス・ウィルソン。この2人が改造したシボレーに乗って旅をする。これにやたらと絡んでくるポンティアックGTOの中年男が、サム・ペキンパー映画の常連、ウォーレン・オーツ。で、途中で拾うヒッチハイクの女の子が、ローリー・バード。この四人のメインキャラクター、みんな名前がないんですよ。役名がザ・ドライバー、ザ・メカニック、ザ・ガール。ウォーレン・オーツは車の名前をとってGTOだし。

―資料を見ると、『断絶』、ストーリーもあってなきが如しのようですし、かなり前衛的な作品みたいですね。

髙山 アメリカ映画1970年代の金字塔ともいうべき傑作で、今年やっとDVDが日本で出た。ぜひ売れて欲しいんだけど・・・・・・。話を戻すと、片一方に梶原一騎的な命名があって、片方に黒澤とか『断絶』みたいな命名方法があるんだけど、俺自身は、わりと小津(安二郎)的な名前の付け方好きなの。紀子(のりこ)とか、たぶん字面と響きだけでつけていると思うんだけれど、ものすごく平凡な名前ばっかりつけるのよ。姓も平山とか間宮とか左右対称のものが多い。戦後の小津の映画見てると、いつも同じような名前を使っているから、「この人、それこそ梶原一騎的な特徴のある名前とか嫌いなんだな」と思う。それで『よみがえる空 -RESCUE WINGS-』は、小津風に、内田一宏とか、長谷川めぐみとか、そこら辺にありそうな名前ばっかりつけたの。そしたらさ……

―そうしたら?

髙山 某掲示板で、誰もヒロインのめぐみを名前を呼ばないんだよね(笑)。みんな「能登が」「能登が」と、キャストの能登麻美子さんの名前で呼んでる。

―あー、実写だとそういうのしばしばありますけどね。キャラの名前じゃなくて、役者の名前で呼んじゃうこと。高山監督は、アニメで巧いネーミングだなって思ったものってありますか?

髙山 うーん、アニメは宮崎(駿)さん・高畑(勲)監督ぐらいしかちゃんと見ていないんだけど、前回も言った通り、宮崎さんのナウシカ、アシタカ、なんかは巧いなと思いましたよ。特にナウシカっていうのは、ギリシア神話が元ネタなわけですけれど、とても響きがいいなと思った。ただあれは、ギリシャ語に沿うと最後の「カ」の母音は伸ばす音なんで、本当はナウシカァになるはずなんだけれど……まあ、架空の世界の話だから、あれでいいのか(笑)。ああ、宮崎アニメの名前で思い出したことが一つ。『羊たちの沈黙』で、レクター博士の吹き替えを、石田太郎さんがやっているのは知ってる?

―あ、そうなんですか。カリオストロ伯爵役の石田さんですよね。

髙山 そう。だから、セリフで「クラリス、まだ羊の鳴き声が聞こえるかね」とか名前が出てくるたびにおかしくって。

―あはは。そうですね。ジョディー・フォスターの役名は、クラリスでした。吹き替えの担当者が遊んだんじゃないかと疑いたくなりますね。

髙山 どうだろうね。でも、ネーミングって慣れに左右されるところもあるんだよね。昔、筒井康隆に『アルファルファ作戦』っていうSFの短編があったんですけど、それが養老院の話なんですよ。養老院なんだけど宇宙時代なんで季候のいい惑星に養老院ができてる。登場人物が全員、皺くちゃのジジィババァなんですけど、名前はみんな近代的なルミとかマリカとか、ものすごくおしゃれな名前で、妙にミスマッチというのがギャグになってた。これが1968年の出版なんだけど、当時S-Fマガジンで読んで「そうだよな」と思ったんだよね。

―その状況は今やもっと過激なことになってますからね。むしろルミとかマリカとかおとなしいぐらいで。時代とともに「今風」に感じる名前も変化しますからね。

髙山 幸田文の『流れる』の主人公の名前が梨花で、戦後すぐが舞台のはずなんだけれど、ものすごくモダンで驚いた。確か小説の中で名前に言及する箇所があったと思う。ウッディ・アレンの短編集の中にも名前ネタのやつがあって・・・・・・エリザベスって女の子にはこんな性格の子が多い、アマンダって名前の子はこういうタイプで、みたいなユーモアスケッチみたいな話なんだけど、その感覚はさすがに全然わからなかった。あちらの文化の中にいれば笑えるんだろうけどね。

―それはなかなか難しいですね。

髙山 あと、丸谷才一のエッセイで読んだけれど、英語圏の名前にも流行廃りがあるんだそうで。日本人も、今は「トメ」とか「捨吉」とかつけないでしょ? それと同じで、アグネスとかって、かなり古くさく感じる名前らしい。

―今だと「子」がついている名前はかなり少数派だったりしますからね。

髙山 アグネスで思い出したけど、香港の人って、漢字の名前と別に、もう一つ西洋風の名前を持っているでしょう。陳美齢がアグネス・チャン、李小龍がブルース・リーとか。あの西洋風の名前って、本人が気に入った名前を自分で選んでつけるんだって。

―へぇ、洗礼名とか親がつけるとかじゃないんですか。じゃあ芸名とそう変わらないですね。

髙山 うん。山口文憲の『香港 旅の雑学ノート』(ダイヤモンド社)を読んで知ったんだけれど。名前って、生まれる前に他人から与えられるもので変えられないという頭があるでしょう。香港では自分でつけられるって知って、ちょっとうらやましかったね(笑)。

―まあ、自分で名前をつけるとなると、それはそれで梶原一騎派か記号・偽名派にするか、迷いそうな気もしますけどね(笑)

髙山 アレン・スミシィってつければ、言い逃れが効きそうでいいなあ(笑)。

構成・文:藤津亮太

次回予告

名前をめぐる冒険の次は、映画作家が無意識に持つ「映画の記憶」をめぐる話に……と思いますが、果たしてどうなることやら。

※内容が予告通りとは限りません。


髙山文彦 プロフィール

アニメ制作スタジオのトップクラフト、アートランドを経てフリーに。1989年『機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争』で監督デビュー。現在公開中の『ストレンヂア 無皇刃譚』では脚本を務めている。代表作は『WXIII 機動警察パトレイバー』(総監督)、『ガンパレード・マーチ 〜新たなる行軍歌〜』(監修・シリーズ構成・脚本)など多数。

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