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「密約」から分かるこの国の姿

2009年6月2日 The JOURNAL
 日本がいかなる国かを如実に物語るニュースに遭遇した。6月1日に共同通信が配信した「核持ち込みに関する密約の存在を4人の歴代外務次官が証言した」というスクープである。ところが東京新聞以外の全国紙は全く報道せず、官房長官と現職外務次官は完全否定した。
 
 共同通信の報道によれば、岸内閣の60年安保改定に際して、核兵器を搭載した米軍の艦船や航空機の日本立ち寄りは「事前協議」の対象とされたが、実は持ち込みを黙認する事で合意した「密約」があり、「密約文書」は外務次官などの中枢官僚が引き継いで管理し、官僚の判断で選ばれた政治家だけに伝えていた。これまで日本政府は「事前協議が行われていない以上、核の持ち込みはない」と国会答弁してきたが、国民に嘘をついてきた事になる。証言をした4人はいずれも1980年から90年代に外務事務次官を経験した。
 
 私は07年10月に「秘密会がない国会は異様だ」というコラムを書いた。各国の議会には「秘密会」があり、メディアや国民に公に出来ない機密情報について議論する場合は「秘密会」で議論する。国民には公に出来なくとも国民の代表である与野党の議員が出席すれば国民に秘密にした事にはならない。ところがわが国の国会で「秘密会」が開かれたという話を聞いた事がない。
 
 インド洋の海上給油を巡る議論でも、「油をどこからいくらで買い、どの国の艦船に給油しているのか」と国会で質問されると、政府は決まって「テロリストに知られると困るので答弁を差し控える」と言って答えない。そこで野党も引き下がる。しかし国民の税金が投入される話である。無駄に使われていないかをチェックするのが国会である。それなのに答弁を拒否されて済ませている国など見た事がない。本当にテロリストに知られて困るのなら「秘密会」を開いて審議すべきだと書いた。
 
 さらに国会に「秘密会」がないのは、実は機密情報を官僚だけが握っていて政治家には知らせないためではないかと書いた。機密情報を握っている官僚の中だけであらかじめ国家の方針を決め、都合の良い政治家にだけ情報を教え、官僚の思い通りのシナリオで政治家を動かしている可能性がある。国民の税金で得られた情報を官僚が独占し、国民に還元しない国を国民主権の国家と呼べるのだろうかとも書いた。
 
 今回の共同通信の報道で私の考えが現実だった事が裏付けられた。官僚はまさしく政治家を選別し、そこにだけ情報を提供し、国民には嘘を突き通した。また「密約」の存在は90年代末にアメリカで公文書が開示され、アメリカでは既に公開情報であるにも関わらず、日本政府は今なお情報公開をしようとしない。そして日本のメディアは政府に歩調を合わせるように、共同通信の報道を無視する姿勢に出た。メディアは国民の側ではなくまずは官僚の側に身を置く事がはっきり示された。官僚が変わらなければメディアも変われないという事なのだろう。それが民主主義と称するこの国の姿である。
 
 それにしても注目すべきは何故4人の歴代外務次官が共同通信に対してこれまでの発言を180度転換する証言を行なったかである。共同通信の取材力がそうさせたとは思えない。そこには大きな権力の意図が働いている。日本政府をも超えた力の存在を私は感じる。
 
 吉田茂の日米安保条約締結時から日本は米国との「密約」に縛られてきた。吉田は「密約」のためたった一人で条約に署名した。そして沖縄返還交渉では佐藤栄作がたった一人で小部屋に入り「密約」に署名した事が知られている。佐藤栄作はそれでノーベル平和賞を受賞したが、日本の「非核三原則」の裏側には絶えずアメリカの核戦略を可能にする「密約」の存在があった。
 
 アメリカは戦後の日本を「密約」で縛ったが、しかし国民の税金で得られた情報はいつかは国民に還元する国である。アメリカ公文書館は「民主主義はここから始まる」と宣言し、時間が経てばいかなる「密約」も公開する事を旨としている。ところがわが国では「密約は墓場まで持っていく」のが美徳であり、それが官僚支配を続けさせる秘訣であった。そうした日本のあり方にいよいよアメリカの力が及んできたのではなかろうか。
 
 核廃絶を目指すオバマ政権の思惑が背景にあるのかもしれない。それとも北朝鮮の核保有に対抗して日本に「核が持ち込まれている」事をアピールする狙いがあるのかもしれない。或いは自民党政権に代わる民主党政権の誕生を予想して、政権交代後の日米関係を構築するための一つの方向を示そうとしているのかもしれない。とにかく私には大きな変化が始まったと感じさせる出来事だ。それを無視するメディアの感覚が私には全く分からない。
 
 麻生政権は55日間の国会延長を行なって選挙をなるべく先延ばししたい考えのようだが、私が前から言うように国会を開いているとどこに「蟻地獄」があるか分からない。「外交が得意」などと吹聴するとその外交で足をすくわれる事がままある。歴代自民党政権が国民に嘘をつき続けてきたこの問題の処理を誤ると思いもよらぬ「蟻地獄」にはまり込む可能性もある。国会を長引かせると危険も大きくなると考えた方が良いかもしれない。
(田中良紹)
※各媒体に掲載された記事を原文のまま掲載しています。

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