■ 高値転売を狙った「乗っ取り」
「乗っ取り屋」が正体を現すのは合併から2週間後の1月27日に開催された「ゆびとま」の臨時株主総会。下村好男容疑者は、新株主となった日スポ社の代理人として出席し、経営陣の退陣を要求。 「辞めなければ解任動議を提出する」 と恫喝。長崎県知事選の最中だ。知事選に立候補していた小久保氏はトラブルが拡大することを懸念して、創業者グループの経営陣は総退陣した。
新社長には前田容疑者、副社長には下村容疑者が就任。経営権を握った両容疑者は創業者グループに保有株の譲渡を強要。日スポ社が約53%の株式を取得して筆頭株主になり、「ゆびとま」の子会社化を発表したのは県知事選の翌日の2月6日だった。
そして日スポ社から「ゆびとま」株式の過半数を取得した下村容疑者が06年4月に社長に就いた。元暴力団組長は「乗っ取り」に成功したのである。
下村・前田容疑者の「乗っ取り屋」は、「ゆびとまAG」への出資や創業者グループからの株式買い取りなどに3億6,000万円近くを注ぎ込んだ。「ゆびとま」の売却で、投資分の回収に取り掛かる。
両容疑者は、ジャスダックに上場している携帯電話向けコンテンツ配信のインデックス・ホールディング(東京都世田谷区)に「ゆびとま」株の譲渡をもちかけた。提示した譲渡価格は6億7,000万円。高値転売で、3億1,000万円を荒稼ぎすることを目論んだ。
06年10月30日、インデックスは「ゆびとま」株の50.5%を取得して子会社化させる基本合意を取り付けたと発表。だが、10日後に合意は解消した。「ゆびとま」の下村社長が元暴力団組長であることがわかったからだ。高値転売の試みは失敗に終わった。
07年2月にアドテックス事件で下村・前田両容疑者が逮捕。前田容疑者は「日本スポーツ出版社」社長を、下村容疑者は「ゆびとま」社長を解任された。
第三者割当増資をカードに、巨大サイトはいとも簡単に乗っ取られた。経営者は企業を守るためにあらゆる手だてを取らねばならない。